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加藤和彦のいったい何がそんなに凄かったのか 映画「トノバン」に表れる先進と諧謔と洗練

東洋経済オンライン / 2024年5月31日 11時40分

次に「加藤和彦・北山修」名義の『あの素晴しい愛をもう一度』は、個人的には加藤和彦の最高傑作だと思っている。

加藤和彦によるシンプルなコード進行とメロディ(このあたりに作曲家としての彼の本質があると思っている)と素晴らしいギタープレイに、北山修による清潔な世界観の歌詞。

その後、商業化・複雑化・混沌化していく日本の音楽シーンにないものが「全部入り」になっているように思う。

結果、老若男女みんなが一緒に歌える1曲として、今でも特別な形で愛されている。逆にいえば、その後のニューミュージック~Jポップにおいて、みんなが一緒に歌えるような曲は驚くほど少ない。

また、加藤和彦が、当時妻のミカや、高中正義、高橋幸宏、小原礼、後藤次利らと結成したサディスティック・ミカ・バンドの活躍も忘れるわけにはいかない。

特に名盤『黒船』(1974年)のリリースと、イギリス公演を成功させたことは、日本ロック史上における大きなトピックとなっている。

このミカ・バンドについてもポイントとなってくるのは、それほどの巨大な功績があり、また最高のテクニックを誇ったバンドにもかかわらず(アルバム『ライヴ・イン・ロンドン』収録の『塀までひとっとび』は日本ロック史上最高の演奏の1つ)、小難しくマニアックにならず、徹底してポップで軽やかなことである。

だってタイトルからして『サイクリング・ブギ』『タイムマシンにおねがい』、さらには『ファンキーMAHJANG』なのだから。

のちの音楽シーンに多大な影響を残した

これら加藤和彦のキャリア初期における凄みをまとめると、1つは「先進性」だ。ビートルズをリアルタイムでパロディにしたような『帰って来たヨッパライ』から、グラムロックからレゲエまで、こちらも最新の洋楽トレンドを取り入れたサディスティック・ミカ・バンドまで、加藤和彦のセンスはとにかく新しい。

その他でもアコースティック・ギターの奏法や、コードワークや、はたまたPAシステムの導入など、やることなすことが先進的で、その一つひとつが、のちの音楽シーンに多大な影響を残した。

次に「諧謔性」を挙げたい。「かいぎゃくせい」=わかりやすくいえばユーモア感覚。特に『帰って来たヨッパライ』のような曲を生み出し、またライブではコントや漫才まで披露していたフォークル時代は、音楽とユーモアが同じバランスで前面に出ている感じがする。

もう1つ挙げれば「洗練性」だ。「先進性」「諧謔性」があっても、加藤和彦の音楽は、最終的な手触りが、何というかサラッとしている。おしゃれでファッショナブルで、絶対に暑苦しくならない。

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