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映画「バティモン5」に映る"移民たちのリアル" 映画撮影の背景について、ラジ・リ監督に聞く

東洋経済オンライン / 2024年6月8日 13時30分

これと同様のことが、日本でも起こりつつあるのではないか。先に述べた、警察官の態度は明らかに「見た目で日本人とは違う扱いをする」証左だ。

若者にも目を向けると、親の都合で来日した未成年者の多くは、高校では夜間クラスのある学校に入って、学んでいる。そこでは先生方が彼らの進路も含めて熱心に指導していると聞く。一方で、小学校までは学校に通っていたが、中学校に進学すると、日本語の授業がわからず不登校になるケースもあるようだ。

そして現在、一部の地域では未成年の在日外国人による犯罪が起きている。先に述べた、一部の横柄な態度の日本人と接するうちに、「居場所がない」と感じていることが影響しているのかもしれない。

日本社会の身近な大人によるフォローが受けられない場合、些細なことがきっかけで非行に走る子どもたちの心境は、日本人の未成年と同じだろう。

また本作で描かれるような地域の問題は、やはり低所得であることに起因する。安い賃金で移民人材を使い続けると、地域は発展せず、人々の不満だけが募り、自然と治安も悪化していく。お金を貯めて母国に帰る人もいる一方で、貧しい状況から抜け出せない人もいる。

本作では、行政との間に立ち、移民をフォローし続ける女性がいる。聡明で思慮深く、行動力のある、マリにルーツを持つフランス人女性アビーだ。

彼女のモデルについて、ラジ・リ監督に聞くと、育った地域には住民のために尽力するアビーのような女性たちがたくさんいたとのことだ。

今まで黒人でスカーフを被った女性たちが映画の中に登場することは多くはなかったが、本作は彼女たちに捧げるオマージュであると語る。

このアビーのような人には、男女問わず、日本にも存在する。その多くは永住者か帰化した人たちだ。言わば日本社会の先輩として彼らに頼られている。今後、アビーのような人が在日外国人と日本社会の融和を担っていくのだろう。

環境問題で移住を迫られるかもしれない

では、この映画について現役高校生はどのような感想を持ったのか。先に述べたダースレイダー氏と都立西高等学校の高校生のトークイベントでは、活発な議論が繰り広げられた。

中でも印象に残ったのは、「不満を解決する話し合いに入れてもらえなければ、暴力に訴えるしかないと考える人も出てきてしまう。そうなる前に認め合うことが必要」という意見だった。また利害調整をするのが政治の役割であるとの意見もあった。若い世代は大人世代より成熟した世界観を持っているのだ。

ラジ・リ監督は、これからは、地球温暖化など環境問題でも、強制的に移住を迫られる人々が出てくると話す。グローバリゼーションが進む世界ではその流れは止められず、本作で生じる問題は、世界中どこの地域でも起こりうることであり、その解決の責任はやはり政治にあると語った。

このメッセージをどう受け取るだろうか。まずは、本作を見て考えてみることをお勧めする。

熊野 雅恵:ライター、行政書士

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