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"梅クライシス"日本一の産地で収穫量急減のなぜ 南高梅の産地・和歌山県、梅農家が悲鳴

東洋経済オンライン / 2024年6月8日 11時30分

綱木研究員は、今年のように開花前に暖冬になってしまう事態は今後も「発生するだろう」と指摘。その背景には、気候変動の影響があるとしたうえで、世界中でさまざまな農作物が影響を受けているように「梅も例外ではない」と語る。

研究所では、高温や乾燥に強い品種改良に取り組んでいるが、長い期間を要する。「桃栗3年柿8年」と言われるが、梅の場合、経済価値を生む樹木に成長するまで10年程度かかるという。

温暖化の影響を最小限に抑えるために

自然に囲まれて作業している真造さんは、地球温暖化の影響を「切実に感じる」と話す。

真造さんの梅農園は、太平洋の海岸線から5キロほど入った場所にあり、比較的温暖で土質もよく、南高梅の栽培に適していた。

しかし、以前は気温が低く梅栽培に向いていなかった内陸の山間部の地域が、最近では適地になりつつあることを、関係者の多くが感じているという。

とは言え、手をこまねいているわけにはいかない。

真造さんは、梅の栽培だけでは将来的に厳しくなることも予想されるため、より温暖な地域に適した作物の研究を提案している。具体的にはアボカドなど高収益で、かつ国内であまり作られていない作物の栽培だという。

梅農家が梅を作れなくなれば、農業自体をやめてしまうリスクがある。このため、経営が成り立つようにリスク分散できるようにしないと「梅さえも作れなくなる」と述べ、「梅産地を守るためには、複合栽培が必要だ」と強調する。

循環型農業の確立を目指して

みなべ町は5月、国連が掲げる持続的な開発目標(SDGs)の達成に向け、優れた取り組みをしている自治体を国が認定する「SDGs未来都市」に選定された。その中で、特に優れた取り組みをする10の自治体が毎年認定される「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれた。

これらの認定を受けるため、真造さんが町議会で提案するなど尽力した。環境事業の1つの目玉は、町全体で年間9000トンにも上る剪定した梅の枝の「バイオ炭」としての活用だ。

バーベキューなどに使う一般的な炭は燃料として使われ、温室効果ガスを発生させる。これに対し、肥料として使うバイオ炭は、地中の微生物を増やし土壌改良と収穫向上につながる。また、炭素を長期間土壌の中で固定するため、温暖化ガスの削減にもつながる。

さらに「J-クレジット」(温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度)への登録も視野に入れているという。真造さんは、これらの取り組みを通じ「理想的な循環型農業が確立できる」と前を向く。

私たちが日常生活で利用しているスーパーでは、一年を通じて野菜や果物が季節を問わず並んでいる。しかし、当然のようにあると考えている商品がある日突然、消えるかもしれない。

農産物は、顕在化する気候変動の影響を受けつつ、産地の関係者の努力や工夫を経て、商品として消費者の前に現れていることを忘れてはならない。

【写真】和歌山県みなべ町での青梅栽培・収穫、梅干し加工の様子、雹被害の様子など写真を見る(7枚)

伊藤 辰雄:ジャーナリスト

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