「敵なし」ナリタブライアン1994年皐月賞の舞台裏 衝撃の三冠達成から30年、関係者が語ったこと
東洋経済オンライン / 2024年6月9日 13時30分
最後は生産者の早田光一郎だ。
「丈夫なのは、5代までアウトクロスになるよう配合しているからでしょう。アウトクロスのほうが丈夫な馬ができるようです。しかも、母親のパシフィカスが父親のいいところばかりを子供に伝えるようで、(ナリタブライアンは)馬体自体も父にそっくりですが、球節が窮屈な父と違ってブライアンにはそれがなく、まったく脚元に気になるところがないんですよ」
当時の記事はこう締めてある。
〈4歳春の時点では偉大な兄ビワハヤヒデを凌駕し、理想的なフォームを身に付け、血統から見ても丈夫でスタミナ、スピード、底力を兼ね備えたナリタブライアン。彼にとって皐月賞は、3冠達成のための第一歩にすぎないのかもしれない。〉
全休日明けの4月12日。ナリタブライアンは栗東トレセンのウッドチップコースをキャンターで軽快に2周し、軽く汗を流した。
村田光雄は「今日のように左回りだと、掛かり気味になるほど気合を出して走りますね。順調そのものですよ」と、笑顔で報道陣の取材に応じていた。
サンケイスポーツが「史上5頭目の『三冠』へGO」の見出しを付けて最終面でナリタブライアンの特集を掲載した13日の朝、ナリタブライアンは本追い切りを、南井克巳が跨ってウッドチップコースで行った。
グン。南井がステッキを抜くだけで、ナリタブライアンの馬体が沈み、一瞬のうちに加速する。直線入り口で3馬身差まで迫っていた、ドラゴンゼアーを瞬く間に引き離していく。ドラゴンゼアーも皐月賞出走予定馬だ。
「たとえ調教であろうと、後ろから来る馬には抜かれない」。そうした意思を伝えるかのように、ライバルを一瞥して直線へ。ラスト100メートル付近で繰り出された鞍上からの肩ムチ一発で、馬体はさらに沈み込むとスピードを増した。
ラスト200メートルは11秒7。抜群の切れ味に、見守っていた大勢の報道陣から驚きの声が上がった。前夜の降雨によって不良馬場で行われたのに、この切れ味はまさに秀逸だった。
「しまいの脚もしっかりしていたし、文句のない状態です」
南井の声が弾む。そして愛馬への賛辞が続く。
「一戦ごとに強くなっているし、さらに成長するだろうね」
南井は最後にこう言って取材を終えた。
「あとは展開だけ。18頭の多頭数で、どんなポジションになるかわからないので、それが課題」
最後に挙げた唯一の心配点も杞憂に終わるだろうと僕は楽観していた。この日、病気療養のため姿を見せなかった調教師の大久保正陽がかつて、ナリタブライアンについてこう話していたからだ。
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