「敵なし」ナリタブライアン1994年皐月賞の舞台裏 衝撃の三冠達成から30年、関係者が語ったこと
東洋経済オンライン / 2024年6月9日 13時30分
「どこからでも動けるから、安心して見ていられるよ」
皐月賞でナリタブライアンは、トレーナーの言葉が真実であったことを実証する。
大久保厩舎との間に生まれた軋轢
ナリタブライアンやビワハヤヒデが追い切った翌日の4月14日、栗東トレセンに衝撃のニュースが飛び交った。
トウカイテイオー故障。
前年の有馬記念でビワハヤヒデを破って奇跡の復活を遂げ、宝塚記念への出走を予定していた天才ホースが、調教中に左前脚を骨折したのだ。栗東トレセンの競走馬診療所で診断の結果、「左橈骨(とうこつ)掌側面剥離骨折」で全治3カ月以上と判明。4度目の骨折だった。
4月18日には、馬主の内村正則が天皇賞・秋を最後に、翌年から種牡馬入りすることを正式に表明した。さらに4月16日に春の天皇賞連覇を目指していたライスシャワーの右前肢骨折が発表された。
これはすなわち、1994年春のGⅠ戦線は、ナリタブライアンとビワハヤヒデに託されたことを意味していた。
ナリタブライアンは、トウカイテイオーの骨折が判明した14日、角馬場とウッドチップコースで体をほぐしてから、予定どおり決戦の地・中山競馬場へ向かった。
翌4月15日には、午前7時に中山競馬場の芝コースに姿を現した。キャンターへ移ると、きっちり仕上がった柔らかみのある馬体が躍動する。中山競馬場へ来るのは3度目とあって、堂々たる落ち着きを見せていた。
手綱を取った村田光雄は「コースを見せておけば馬が安心すると思って本馬場に入れました。芝のはげたところを気にするところがあったが、心配ない」と語る。この日も追い切り同様、シャドーロールを装着していなかったが、「レースでは着ける予定」とも話した。
皐月賞の枠順は1枠1番
その日に発表された皐月賞の枠順で、ナリタブライアンは最内の1枠1番に決まった。翌日のサンケイスポーツは1面で枠順確定を伝え、「皐月フィーバー 1番枠 1人気、1冠だ」という大きな見出しが目を引いた。
皐月賞前日の朝、ナリタブライアン陣営と報道陣との間で軋轢(あつれき)が生じた。
村田光雄が取材に応じないというのだ。
調教師の大久保正陽は不在。主戦の南井克巳は阪神で騎乗。この日のナリタブライアンの様子は村田に聞くしかなかったので、報道陣が反発した。
皐月賞出走馬の前日追いが終わって出張厩舎に行くと、報道陣がナリタブライアンのいる馬房から少し離れた場所で待機していた。厩舎の扉は閉められ、中の様子はうかがえない。
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