「読者の7割ばあちゃん」福岡の新聞ヒットの裏側 75歳以上が働く「うきはの宝」のリアルに迫る
東洋経済オンライン / 2024年6月14日 7時0分
大熊さんはうきは市の公務員一家に生まれ、「何となく生きづらさを感じる」幼少期だった。高校に進学するも中退し、大好きなハーレーダビッドソンに関わる仕事をしたくて、整備やカスタムなどの技術を学ぶ。
どん底の入院生活でおばあちゃんたちが支えに
しかし20代半ば、バイク事故で大けが。大手術を繰り返し、入院生活は4年ほどに及んだ。バイク屋になる夢は絶たれ、精神的にもどん底に。「まるで廃人だった」という大熊さんの心を動かした唯一の存在が、入院中のおばあちゃんたちだった。
「ばあちゃんたちは『なんで入院してるの』とか遠慮なくどんどん話しかけてくる。心を閉ざしていた僕はずっと完全に無視していたけど、ふと気づいたんです。長い入院生活を続けるうちに、話しかけてきたばあちゃんたちが亡くなり、ああ、命には限りがある、僕は生きているんだって」
30歳を前に退院して地元に戻り、働きたくて数十社に応募。しかし「不況のさなか、中卒の僕を雇ってくれるところはなくて。自分は誰にも必要とされていないとショックを受けました」。
唯一身につけていたバイク部品の販売をしようと起業し、デザインやマーケティングを学ぶと仕事が入ってくるように。
しかし、おばあちゃんたちの役に立ちたいという思いが募り、知人に勧められた社会起業家の育成スクール「ボーダレスアカデミー」を受講。地元でシニアの無料送迎サービスをしながら、1000人以上にヒアリングした結果、「年金にプラスして、ちょっと仕事ができるといい」という声を多数聞いた。
「過疎地のばあちゃんたちは、生きがいと収入を求めていたんです。当時、他の人に話しても、『おばあちゃんが働く必要があるの?』『ビジネスにはならないでしょ』と言われ続けました。でも、僕は本人たちの声を直接聞いていたから、絶対にできると信じていました」
ビジネスプランを磨き上げて、2019年10月「うきはの宝」を設立。目標は「500人のばあちゃんに仕事を生み出すこと」とした。「ばあちゃんたちの役に立ちたい一心で、会社を立ち上げました。ばあちゃんが働くことで生きがいと収入を得られるビジネスを確立して、世に問わなければと。高齢化や孤立の問題は、みんなで考えていかなければいけない問題だから」。
十数人のスタッフでスタートし、試行錯誤の連続だった。おばあちゃんが得意なことを仕事にしようと食堂や編み物をしたこともあるが、うまくいかずに中止。
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