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荒れ邸から二条院へ、突如始まった少女の新生活 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫⑩

東洋経済オンライン / 2024年6月16日 17時0分

ほかの大勢とは比べものにならないくらいかわいらしい女童に出会い…(写真:Nori/PIXTA)

輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。

NHK大河ドラマ「光る君へ」で主人公として描かれている紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。

この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第5帖「若紫(わかむらさき)」を全10回でお送りする。

体調のすぐれない光源氏が山奥の療養先で出会ったのは、思い慕う藤壺女御によく似た一人の少女だった。「自分の手元に置き、親しくともに暮らしたい。思いのままに教育して成長を見守りたい」。光君はそんな願望を募らせていき……。

若紫を最初から読む:病を患う光源氏、「再生の旅路」での運命の出会い

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若紫 運命の出会い、運命の密会

【図解】複雑に入り組む「若紫」の登場人物系図

無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。

この機会を逃してしまったら

いったいどうしたらいいものか、と光君はあれこれ考えをめぐらせる。世間に知られたらなんと好色な、と思われるに違いない。せめてあの姫君が男女のことを理解するほどの年齢だったなら、情が通い合ったのだろうと世間も思うだろうし、そうしたことならよくあるのに。それに、連れ出してしまった後で兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)に知られたら、こちらも恰好がつかない、言い訳も立たないことだろう。けれども、それでこの機会を逃してしまったら悔やんでも悔やみ切れない……。そして明け方、まだ暗いうちに光君は左大臣家を出ることにした。女君はいつも通り気を許すことなく、不機嫌である。

「二条院に、どうしても片づけなければならない用事を残してきたことを思い出しました。終わったらすぐに戻ってきます」と光君は女君に言って出かけたので、お付きの女房たちも気づかないのだった。

光君は自分の部屋で直衣に着替え、惟光だけを馬に乗せて出発した。

門を叩かせると事情を知らない者が開けたので、車をそっと邸内に引き入れさせる。惟光が妻戸を叩き、咳払(せきばら)いをして来訪の旨告げると、少納言の乳母があらわれる。

「源氏の君がおいでになっていらっしゃいます」と惟光が言うと、

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