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心臓外科医が説く「手術に向き合う」心の整え方 「ゾーンに入る」ことを期待してはいけない

東洋経済オンライン / 2024年6月16日 19時0分

「懈慢界(けまんかい)」という仏教用語があります。無数の快楽によって、極楽浄土に生まれようとする本来の目的を見失わせる世界のことを言うそうですが、まさにこの世の中はその世界に近づいてきているような気がします。

私が初めて「オフポンプ手術」を成功させたころの医学界の反応は、決して好意的ではなく、それどころか、激しい批判を浴びました。

1994年の日本外科学会で、私は手術の成果を発表しました。より安全な手術を多くの医師に行ってもらい、患者さんのリスクをできる限り取り除きたいと思ったからです。

理解を得られると思っていたのですが、そうではありませんでした。この学会で司会を務めた医学界の重鎮である国立系専門センターの総長は、みんなにこう呼びかけたのです。

「こんなトリッキーで危険な手術をやりたいという人がいたら、手を上げてください」

会場は静まり返り、誰も手を上げませんでした。露骨な嫌がらせだと私は感じました。なかには、私の発表に興味を持った方もいらっしゃったことでしょう。でも、重鎮である総長に忖度し、手を上げなかったのだと思います。

もしくは、新しいやり方を提示されるのが嫌な方もいたのかもしれません。自分たちのこれまでのやり方を否定された気持ちになったのか、それとも新たな手術のやり方に対応する自信がなかったのか……。

このときに私は、改めて思いました。目を向けるべきは学会の反応ではなく、患者さんのためにさらに手術を進化させることだと。"白衣を着たら、やることはひとつ"です。

何か新しいことを始めようとしたとき、それを邪魔するのは「一般的ではない」という固定観念。また、新機軸への共鳴を拒むのは「周囲から何を言われるかわからない」という自己保身意識です。本当に大切なことは、「なんのために、誰のためにやるのか」という本来の目的を忘れないことです。

とはいっても、長い人生においてさまざまな人の影響を受けて、自分も気づかないうちに、それを見失ってしまうこともあるでしょう。

だからこそ、白衣を着たら何をすべきか思い出すことが医者に必要なように、みなさんも、たとえばスーツを着たとき、仕事着を着たとき、「なんのためにやるのか、誰のためにやるのか」を思い出す習慣をつけてください。それだけで、心が本来の目的に立ち戻るきっかけをつかむことができるはずです。

手術を「医療側の秘事」にしてはいけない

みなさんはドラマや映画での場面以外に、実際の手術の現場を見たことがありますか? おそらく、医療関係者でもない限り、ほとんどの人が「ない」と答えることでしょう。

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