日本でスタートアップが育つために必要な条件 ブームとともに広がる幻想と無視される現実
東洋経済オンライン / 2024年6月18日 11時30分
「経営学は実務に必要か?」というテーマで、『Z世代化する社会』の著者・舟津昌平氏らによる出版記念シンポジウムが行われた。
本記事では、『スタートアップとは何か』を上梓した関西学院大学経済学部教授の加藤雅俊氏による講演をベースに、スタートアップへの誤解とその実像を解説する。
スタートアップへの研究者と実務家の視点の違い
政府が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけて以来、スタートアップに対する公的支援が本格化してきている。スタートアップに関する報道はメディアで盛り上がりをみせているが、このスタートアップブームは本物なのか。詳しくは、拙著『スタートアップとは何か』で書いたが、この記事ではそのエッセンスをお伝えする。
まずお伝えしたいのは、しばしば混同されている、スタートアップと中小企業の違いだ。研究者の視点からすると、スタートアップは「創業間もない企業」を指し、企業年齢としては5年まで、せいぜい10年までの若い企業を意味する。一方、中小企業は企業規模をもとにした用語であり、企業年齢にかかわらず一定の規模以下の企業を指す。
なぜこの違いに注目したいかというと、成長率やイノベーションといった経済的な成果と企業年齢の間には密接な関係があるからだ。つまり、創業間もない時期の企業は大きく成長する可能性が高く、革新的なイノベーションを創出する可能性が高い。逆に、創業から長い時間が経過した一般的な中小企業は、このような可能性は低い。「企業年齢」こそがカギを握るのである。
次に、スタートアップの特徴として、創業後に成功する企業と失敗する企業が二極化する点が挙げられる。研究者としては、この成否に至る「プロセス」に関心を持つ。どのような創業者が成功するのか、どのような環境において企業は成功しやすいのか、これらを俯瞰して観察する。具体的には、資金調達の成功や失敗、企業の成長、さらにはユニコーン企業のような高成長企業の誕生までのプロセスに焦点を当てる。決して「結果」だけを見ることはしない。
こうした視点は、新しい企業が誕生してから成長するプロセスを理解するために不可欠である。ある企業がなぜ成功したのかを知るには、成功企業を観察するだけでは不十分である。適切なセレクション(選抜や淘汰)が機能していない可能性もあり、結果だけ見ていると、何が成否を分けたのかについての理解が進まない。
一方、実務家、特にベンチャーキャピタル(VC)や投資家の視点では、スタートアップの定義はやや異なる。彼らは主に投資からのリターンに関心があり、VCから投資を受ける企業だけをスタートアップと見なすことが多い。しかし、実際にはVCから投資を受ける企業は全体のごく一部(0.2%程度)でしかない。アメリカのデータで見ても、VCは200社からスクリーニングして4社ほどに絞る。したがって、ごく一部だけをスタートアップとして認識してしまうと、それまでのセレクションプロセスはブラックボックス化してしまうことになる。
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