1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

NHK「燕は戻ってこない」えげつないのに深いワケ 女性の貧困、代理母を描いた話題作を読み解く

東洋経済オンライン / 2024年6月18日 15時0分

この世界はまるで、りりこの描く、あっけらかんとしてどこかユーモラスな性行為の画のようである。彼女は恋愛感情や性欲がなく、家族制度から抜け落ちる本当のアンチであり、だからこそ世の常識に疑問を投げかけていかないといけないと考えている(原作では「アセクシュアル」の言葉を使用しているがドラマでは使用されていなかった)。

世の中にはいろいろな人がいて、正解はない。そう語るのは簡単だが、その個性のいいところも困ったところも、1人ひとり丹念に描かれている。

ドラマ後半につれて魅力が増してきたキャラ

筆者的には、リキの不倫相手の日高の悪気なく卑俗すぎるところが、戸次重幸の清潔そうな見た目と落差があって最高なのだが(身近にいたら絶対にいやだが)、後半ぐっと追い上げてきたキャラがいる。メソッドで生きている千味子である。

ひどいつわりに苦しめられ部屋で倒れているリキを、テキパキと世話をしながら、妊娠もバレエもメソッド(方法論)が大事なのだと、千味子は自信満々に言う。

「人間は何世代もかけて完璧なメソッドを生み出してきた」と名言を吐きながら、自分が完璧と思っていた草桶家のメソッドが壊れたと嘆く。

悠子の出現で出産できたはずの前妻を失ったすえ、大金を出して(リキに1000万円、代理母を斡旋している生殖医療エージェント・プランテに1000万円の計2000万円を千味子が支払うのだ)、代理母に頼るしかないことを口惜しいと考えている。

千味子は単に息子にべったりの毒母キャラではない。リキに出産メソッドを伝授したりするところなど意外とやさしい人に見えて、それが後にたちまち翻る。悠子に「あれは違う人種よ」とリキのことを見下すように評するのだ。

ただ、リキが貧しくて教養がないことを蔑むのではなく、努力しないで甘えて、育ちのせいにしていることへの非難なのだ。そして「どうしようもない人間に私たちはすがっている」と自分たちのことも蔑む。完璧だったメソッド人生がメソッドなき人間によって支えられることになり、千味子のプライドが揺さぶられる。

一方、悠子は「お金にものを言わせて貧しい女性を蹂躙しているだけ」と自分たちのしていることを恥じる。要するに、売るほうも買うほうもどっちもどっちなのである。なにしろ、いまのところ、生まれてくる子どもにもやがて意思が芽生えることを、このドラマの登場人物は誰ひとり考えていない。

基と千味子は最初からバレエダンサーに育てることを決めつけて、その子が自分の出生の秘密をどう感じるのか、本当の母が誰か知る権利はないのか、等々……さまざまな問題に誰ひとり想いを馳せることがない。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください