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気づかぬうちに陥る「現代の情報弱者」とは誰か 「だまされる人が愚か」だと言い切れない事情

東洋経済オンライン / 2024年6月21日 10時30分

私は、現代は「専門家の時代」であると思っています。玉石混淆の情報が膨大に溢れているからこそ、「玉」の情報を発信する専門家の存在価値が高まっており、情報を受け取る側である私たちは、常に「信用できる専門家かどうか」を見極めなくてはいけません。手始めにテレビに出ているような「自称・専門家」の言うことを鵜呑みにせず、むしろテレビにはあまり出ていない複数の専門家の発信を並列的に眺めるようにすることで、「カモにされやすい情報弱者」にならずにすむでしょう。

無邪気なだけに危険

世の中には「成功者が成功の秘訣を説いた本」があまたあります。しかし結局のところ、成功とは「時の運」によるところが大半です。たまたま、自分のアイデアが世の中のニーズにマッチした。たまたま、いい協力者に巡り会えた。こうした偶発的なラッキーが積み重なった結果に過ぎません。したがって、仮に、その成功者と同じことを同じように実践したとしても、同様に成功できるとはかぎらないわけです。

成功と失敗は紙一重であり、一握りの成功の陰には幾万の失敗例があるはずです。では、その一握りの成功に必然性があったかというと、そうとは言えないでしょう。にもかかわらず「自分はこれをしたから成功できた」と断言するのは、決して悪気はないだろうとはいえ、一種の「成功者バイアス」でしかありません。

その人がどんな苦労を経たのか、どのように立ち上がり、新しいことを発想し、まわりの人たちも巻き込んで成功するに至ったのか。成功譚は読むだけで気持ちが高揚し、その人が示す教訓を取り入れたくなるのはわかります。その「信じたい気持ち」「夢見る気持ち」が、成功譚をノウハウ化して売り物にしている成功者のカモにされていると見ることもできるのです。

知人の経営コンサルタントが、以前、こんなことを言っていました。「ものが売れる理由というのは存在しない。ただし売れない理由は必ずある」――成功には再現性がないが、失敗には再現性があるということです。ならば、成功した経営者の話ではなく、失敗した経営者の話を読んだほうが、よほど有意義な教訓を得られるに違いありません。

もっと話を広げれば、有名な成功者をかたった詐欺メールやロマンス詐欺に引っかかる人も、同じ類型に入ります。「なぜ、縁もゆかりもない有名人が自分にメールを?」「なぜ、こんなに素敵な人が急に自分を好きになった?」と疑うことなく、「自分こそ選ばれた人なのだ」と考えてしまう。でも、そんな降ってわいたような甘い夢物語は、まず現実には起こりません。カモにならないためにも、そう肝に銘じておいたほうがいいでしょう。

自分も笑っている場合ではない

『全員“カモ”』を読んだうえでXを眺めていると、「カモになりやすい予備軍」の人たちがたくさんいることに改めて気づくかもしれません。

特殊詐欺のニュースなどに接したとき、多くの人は「だまされるほうがバカだ」と笑うでしょう。しょせんは他人事なので嘲笑し、エンタメの1つとして消費してしまう。でも本当は、決して他人事ではありません。

いつ、自分も同じ落とし穴に陥るかわからないのです。エンタメ化するのではなく、「どうして、この人はだまされてしまったんだろう」と一歩引いて考えてみることが、多種多様な「だまし」がはびこっている今、自分の身を守るためには必要だと思います。

(後編に続く)

(構成:福島結実子)

佐々木 俊尚:作家・ジャーナリスト

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