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コカコーラを日本一売った男の「営業力」の源泉 「雨風に曝され、つらい外回り」に先輩の教え

東洋経済オンライン / 2024年6月21日 18時0分

「わしの席からは窓越しに配達する業者の様子が見えるんじゃが、君は商品が雨に濡れないようにとお腹に抱えて持ってきた。ところが、他の会社の配達は商品を雨除け代わりに頭の上にして、倉庫に運び入れているじゃないか。それは商品を大事にしていないどころか、わしら取引先のことを大切に思っていないということじゃ。君は商品が雨に濡れないようにと大事に抱えて持ってきた。わしはそういう人間と商売がしたいんじゃ」

事務員さんが横からタオルを渡してくれました。

「まぁ、ずぶ濡れねぇ。風邪を引かないようにね」

私の目からは大粒の涙がこぼれていましたが、気づかれないように頭からしたたる水滴を拭き取りながらタオルに顔をうずめました。

稲盛和夫さんがよく仰っていた「敬天愛人」という西郷隆盛の言葉があります。これは「日ごろから修養を怠らず、天を敬い、人を愛する境地に到達することが大切である」ということを説いています。

私たちは、「お店を敬い、自分たちの商品を愛する」という「敬店愛品」という言葉を使っていました。この思いこそが営業です。それを人は必ず見ています。

すし安は頑固を絵に描いたような主人と、それに負けないくらい気の強い奥さんがやっているお寿司屋さんです。以前から私たちをひいきにしてくれており、店の駐車場にはもう何台目かの自販機が設置されています。

しかし、少々気難しいところがあり、出入りの業者の言葉遣いや商品の扱い方、訪問したときのクルマの停め方など気に入らないことがあると、凄い剣幕で怒られます。

業者同士でよく話をするのですが、どのあたりが怒りの引き金になるのかよくわかりません。こちらは普通に話しているつもりでも、突然へそを曲げたりするので、なかなか厄介です。

あんたどういうつもり?

今日は一日中雨でした。びしょびしょに濡れながらのルート回りを終え、事務所で日報を書いていると、「おーい、電話だぞ」と私を呼ぶ声が聞こえます。「はいはい」と受話器を取るとすし安の奥さんからです。

「はて、なんだろう。昼過ぎにお伺いして、注文の商品を置いてきたばかりだけど」と思いつつ、用件を伺います。

「主人がすごく怒っているのよ。私も同じだけど、あんたどういうつもり?」

一気に背筋が凍り付きます。

「何をやっているのよ。雨に濡れた箱もあるし、床がびしょびしょじゃない。ちょっと店まで見に来なさい」

怒られるようなことをしていないし、納品した商品も濡らさないように運んだので、クレームになるようなことはないはず。状況を飲み込めません。でも、まずはお店に伺わざるを得ない状況です。受話器を置くと思わずため息が漏れ、天井を仰ぎます。

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