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「猫派の一条天皇」飼い犬に命じた"恐ろしい処罰" 中宮や清少納言も同情した「翁丸」の悲しい逸話

東洋経済オンライン / 2024年6月22日 10時0分

それを聞かれていた中宮は眉をひそめ(酷いことを……)と悲しんだご様子だったようです。

日が暮れてから、その犬に食べ物を与えようとしましたが、犬は食べませんでした。そのため、女房たちもその犬は、翁丸とは別の犬ということにしたようですね。

翌朝、中宮が髪をとかしたり、顔を洗っていると、その犬は庭先の縁の柱のところにうずくまっていました。

その様子をご覧になった中宮は、翁丸を思い出し「本当に可哀そうなことをした。今度は何に生まれ変わったのでしょう。打たれて死ぬときは、どんなにつらかったことでしょう」と仰せになりました。

涙を流した犬の姿に、清少納言は確信する

すると、その犬が、体を震わせて、涙を流すではありませんか。清少納言はその様子を見て、驚きます。(やはり、この犬は翁丸だったのだ……)と確信したようです。

同時に、昨日の夕方は、自分の素性を隠していたこの犬を、賢いとも感じたようです。「翁丸か」と呼びかけると、犬は地に伏して、大きな声で鳴いたとのこと。中宮もほっと一安心、声を上げてお笑いになったとのことです。

帝も「犬もこれほどの分別があるのか」とお笑いになり、二度と流罪を命じられることはありませんでした。翁丸が生きていたとの情報は、当然、蔵人にも入ります。蔵人の忠隆は「翁丸が帰ってきたとは本当か。検分させてもらおう」と言いましたが、清少納言は「そのような犬はおりません」と断固拒否します。そんなこともありましたが、帝のお怒りもとけて、翁丸はもとの身分に戻ったのでした。

(主要参考・引用文献一覧)
・石田穣二・訳注『新版 枕草子』上巻(KADOKAWA、1979)
・渡辺実・校注『枕草子』(岩波書店、1991)

濱田 浩一郎:歴史学者、作家、評論家

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