日本人は「賃金停滞」の本質をわかっていない 企業利益は急増しているのになぜ増えない?
東洋経済オンライン / 2024年6月23日 11時0分
輸入価格が下落したのであるから、本来は、企業がこれを売上げ価格の引き下げを通じて、国民に還元しなければならない。そのようなことが行われれば、国内物価は下落したはずである。ところが、実際にはそうした還元は行われなかったため、国内物価は上昇を続けた。
これによって、企業の粗利益が増加したと考えられる。
利益が増加しても、人件費は凍結
粗利益は人件費と利益に分配される(ただし、法人企業統計調査においては、工場労働者などの賃金は原価に計上されている。本稿で「人件費」と言っているのは、これを除く部分である)。
分配率を一定に保つためには、賃金も粗利益の増加率と同じ率で増加しなければならない。しかし実際には、人件費はほぼ完全に凍結された。そして、粗利益に占める人件費の比率は低下した。
2023年の春闘での賃上げ率は記録的と言われたのだが、法人企業統計の数字を見る限り、それによる人件費の増加は確認できない。このために、企業の利益が増えたのだ。つまり、労働分配率が低下した結果、企業の利益が増えた。また、輸入物価が下がったにもかかわらず、企業は値下げをしなかったことの影響も大きい。
粗利益が増えたにもかかわらず、企業が人件費を増加させなかったことは、社会的な批判の対象になって然るべきだろう。2023年の春闘以降、企業が高い賃上げ率を許容したのは、粗利益が増えて経常利益が増えているという背景があるのだろう。言わば、賃金を支払う原資があるのだ。企業は、こうした環境で賃上げをせずに利益を増やしていることに対する社会的な批判が強まるのを恐れたのだろう。
2024年の春闘でも、高率の賃上げが行われた。この影響が、法人企業統計などに、いつ、いかなる形で現れるかが注目される。
野口 悠紀雄:一橋大学名誉教授
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