航空管制官が「原則を外れた指示」を出す時の条件 現場でもっとも評価される管制官の能力
東洋経済オンライン / 2024年6月24日 19時0分
原則と違うけれどメリットがある、安全性と効率を高めることができると思ったら、それは行なったほうがよいでしょう。ただし、自己の管轄に収まらない場合は、「内部調整が必須」という条件の下においてです。
1人で空港・空域すべての飛行機を動かせるのなら、調整はいりません。しかし、実際は複数の人間がかかわっています。原則と違うことをやるときほど、周囲の合意形成が大切です。ここでもコミュニケーションのテクニックが活きてきます。
ワンマンプレーは好まれない
管制官には原則を堅持する人と、状況に応じて柔軟な方法を選ぶ人がいます。一長一短があり、正解はありませんが、後者は「イケイケ管制官」などと揶揄されるのを聞いたことがあります。おそらく自分も、現役時代は周囲にそう思われていたのではないかと思います。
原則を堅持するメリットは、管制官の負担が少ないということです。前例主義にも近いかもしれません。今まで通りのやり方を貫くことで、それを守ることに集中できます。
後者のメリットは、関係する管制官のあいだでうまく合意がとれれば、安全性、効率性が向上する、ということです。
そもそもそういった調整をするということ自体、原則通りにやっていたら必要のないものです。それでも、たとえ原則通りでなくてもこっちのほうがよいと判断したら、あえて調整を行なってよりよい管制を実現する――いかにも職人肌という感じですが、こうした行動が周囲に高く評価されるのか、というとかならずしもそうではありません。
調整をすること自体、周囲に負荷をかけることになります。いくら頭の回転が速くて、状況を的確に読み切って、スマートな判断ができたとしても、周囲がそれを受け入れていなかったら当然、評価は下がります。ワンマンプレーは好まれない、ということです。
それまで100回うまくいっていても、101回目に何かが起きてしまったら100回の功績は崩れ落ちます。「安全を守る」というのは、そういうことなのです。
管制はあとで「答え合わせ」ができる
ただ、原則通りにしろ、柔軟な対応にしろ、管制官は皆、正解がはっきりしないなかで事前の判断が求められるわけです。これはどんな仕事においても、何らかの課題に対して対応を迫られるという点では共通のことかもしれませんが、管制の面白いところは、あとでかならず「答え合わせ」ができてしまう点でしょうか。
たとえば、到着機が空港から10数キロメートルの地点にいる一方、出発機が地上走行しながら滑走路に近づいているという場面で、管制官が無理をせずに到着機を優先し、出発機には滑走路手前での待機を指示したとします。
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