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航空管制官が「原則を外れた指示」を出す時の条件 現場でもっとも評価される管制官の能力

東洋経済オンライン / 2024年6月24日 19時0分

おそらく、その管制官は「今、離陸許可を出しても間に合うかもしれない」と迷った末に待機の判断をくだしています。出発機がいざ滑走路の手前に到着した時点で、待機か離陸かを判断させてくれればいちばんよいのですが、「クルマは急に止まれない」と同じく、飛行機はすぐに動き出すことができません。

管制官が到着機の位置を見ながら指示しているように、出発機のパイロットも着陸してくる飛行機の動きを目の前で見ながら、離陸できそうかどうかを予想しています。そんななか、管制官が待機を指示したのが2分前なら、その後、地上走行して滑走路により接近するであろう2分後には離陸が間に合うかどうかわかる位置に両機とも到達しています。その時点で、「このタイミングだったら離陸に間に合ったな」、あるいは「管制官のいう通り、待機で正解だったな」と答え合わせができてしまうわけです。

もしも、待機が正解だったとなれば「あの管制官は2分前の時点でこれを読み切った。正しい判断だった」となるでしょう。同じ管制官ならわかるはずです。

これとは逆に、離陸を先にすると判断した管制官は、出発機と到着機の両パイロットに対して調整を仕掛けることができます。到着機には減速の指示を、出発機には離陸を急がせる指示を出して、より自分のつくり出したい交通の流れに寄せていくのです。

現場でもっとも評価される管制官とは

しかし、そこまで柔軟な対応をして離陸させた結果、やはり安全な間隔が保てず失敗に終わるということもあります。

柔軟性を持つことも必要です。ただし、周囲の同意が得られなかったり、現実に負担をかける結果となってしまっては意味がありません。私自身、本当はこうしたほうがうまく行くのに、と思いながらぐっと堪えるシーンは日常的にありました。

これは完全な持論ですが、もっとも評価される管制官は、というと「チームワーク力を高められる管制官」だと確信しています。

この人とだったら、気がねなく、何のストレスも感じずに楽しく仕事ができる。この人と一緒に仕事をしているとなんだか安心できる。このメンバーだったらいつでもうまくやれる気がする。緊急事態、悪天候……空港ではさまざまなことが起こります。それでもこのチームだったらうまく乗り切れる。そんな雰囲気をつくれる人が、管制の現場では求められるのだと思います。そこに予測能力の高さや動じない平常心が加われば「満点管制官」です。

管制は、チームスポーツのようなものです。どんなに優れた個人技を持っていても、チームに貢献できなかったら勝つことはできません。全体を見て、先を見通して、あくまで組織の一員としてうまく動ける人こそベストプレイヤーです。

頭がよくて、頭の回転が速くて、英語が堪能で、空間把握能力があって……という一般の方が想像する優秀な管制官の姿は、必要とされる素養のほんの一部でしかないのです。

タワーマン:元航空管制官・航空専門家

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