「成瀬あかり」は現実のM–1でどこまで通用するか M-1創設者が驚愕する「成瀬本」の深いM–1描写
東洋経済オンライン / 2024年6月26日 15時0分
参加料であるエントリーフィー2000円を払うところとか、楽屋でプロとアマチュアが入り交じって本番を前に緊張している様子だとかが見てきたかのように描かれている。
ゼゼカラがプロ漫才師の「オーロラソース」に話しかけなかったように、M–1予選では、アマは同じグループにいるプロの人気者をチラチラ見ながらも、決して声をかけない。みんなピリピリしててそういう雰囲気ではないし、同じ舞台に立つ出場者なので、ライバルとして見ていたのかもしれない。そして自分と一緒の会場で予選1回戦に挑んだプロが決勝に残ったりしたら、おれは彼らと同じ舞台に立って漫才をしたんだ、すごいだろうと自慢するのが、よくあるアマの姿だ。
こういうM–1の予選の雰囲気がよく伝わってくる。これほど克明に書けるとは、作者の宮島未奈さんは、実際にM–1に出たことがあるのだろうか。本人に聞いてみたい。
そしてぼくが一番心を打たれたのが、この小説はM–1の精神ともいうべきものを実によく理解してくれていることだ。
「頂点を極める」をモットーとする成瀬にとって、「プロアマ、所属事務所、人気、実績は一切関係なし、その日のできだけで若手漫才の日本一を決めるガチンコ勝負」がコンセプトであるM–1を標的とするのは、理にかなっている。当然目標はM–1の頂点を極めることだ。
残念ながらゼゼカラは予選1回戦で敗退するが、あっさり1回戦で落ちるのは、M–1が公正に審査され、ガチンコで競う競技だということを証明している。
そして、敗退しながらも、彼女らは漫才の深さ、漫才をやることのおもしろさを知る。これもM–1をつくったねらいそのものだ。『M-1はじめました。』で書いたように、M–1には、アマチュアにも実際に漫才をやって漫才のおもしろさを感じてほしいという一面があった。
ゼゼカラはこのあとも3回出場を続けるが、結局1回も1回戦を突破できなかった。そして高3になった年、成瀬は「漫才はこれでいったん終わりにしよう」と言ってその年はM–1には出ないことを宣言する。
でも、成瀬は何年後かにまたM–1に出場しそうな予感がする。そしてその時は1回戦敗退ではなく、かなりのところまで行きそうな気がする。それは何年後か? 作者にはぜひそれを書いていただきたいと願っています。
「M–1」が普通に小説に描かれるという驚き
2001年、あの頃漫才は世間ではすっかり忘れられたオワコンだった。テレビでは漫才番組は1本もなく、吉本の劇場でも漫才をやるな、コントをやれと言われていた時代だ。漫才はそこまで落ち込んでいた。
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