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「成瀬あかり」は現実のM–1でどこまで通用するか M-1創設者が驚愕する「成瀬本」の深いM–1描写

東洋経済オンライン / 2024年6月26日 15時0分

そのときに43歳の吉本社員だったぼくは、漫才を立て直すための「漫才プロジェクト」のリーダーにいきなり任命された。社内でたったひとりのプロジェクトだった。M–1を立ち上げたときも「そんな若手の漫才コンテストを誰が見るのだ」と言われた。付いてくれるスポンサーは見つからず、放送してくれるテレビ局はひとつもなかった。漫才もM–1も、そんなどん底の状況だった。

ところがこの小説は、誰もがM–1の存在を知っている前提で書かれている。ついにM–1が普通に小説に描かれるくらい一般的になったのだ。今さら何を言っているのかと思われるかもしれないが、漫才冬の時代にM–1を始めたときには、まさかこんなふうになるとは夢にも思わなかった。とてもうれしくて感慨深い。そして成瀬にM–1に挑戦させてくれた作者にお礼を言いたい。

実はぼくと成瀬にはM–1以外にも縁がありすぎて驚いている。

ぼくは滋賀の出身である。そして、成瀬が通う膳所(ぜぜ)高校のライバルである彦根東高校の出身で、成瀬と同じ京大を出ている。成瀬が夏祭りで踊った江州(ごうしゅう)音頭を聴くと体が自然に踊り出す(これはけっこうほんと)。

他府県から電車あるいは車で滋賀に帰ってきて車窓から琵琶湖が見えてきたときには、なんとも言えないうれしさと安堵を感じる滋賀県人だ。夜、紫色に光る西武大津店の姿を初めて見たときには、どういうわけか誇らしく感じたものだ。滋賀出身の堤康次郎(つつみ・やすじろう)が創業した西武グループが初めて滋賀につくった西武百貨店だからか。

成瀬のおかげで、ぼくのふるさと、滋賀が今熱い。

滋賀を舞台にした『成瀬は天下を取りにいく』は「2024年本屋大賞」をはじめ、なんとこれまでに15冠獲得した。おかげで滋賀が(ちなみに関西人は「滋賀」という単語のアクセントのせいで「滋賀が」と言いにくいので、大体みな「滋賀県が」と言う)、琵琶湖が、西武大津店が、琵琶湖の観光船ミシガンが、そして膳所が注目を浴びている。こんなに注目を浴びるのは滋賀県の長い歴史の中でも、大津京時代と戦国時代、そして桜田門外の変以来である。

今年のM–1への「成瀬」たちの出場が楽しみ

このようにぼくとM–1に非常に関係の深い『成瀬は天下を取りにいく』であるが、この本を読んでM–1に挑戦する人がさらに増えたらうれしい。そして漫才のおもしろさ、楽しさをたくさんの人に知ってもらえたら尚うれしい。

今年もいよいよM–1グランプリが始まる。8月1日には予選1回戦がスタートする。

「成瀬」の影響で、今年は全国から例年以上にたくさんのアマチュアが参加してくるかもしれない。もしかして、本物の成瀬も参加して、見事1回戦を突破するかもしれない。そう思うと今からワクワクする。

谷 良一:元吉本興業ホールディングス取締役

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