「先延ばし癖のある部下」がみるみる変わる手法 人の癖を理解して、行動変容を促すナッジ
東洋経済オンライン / 2024年6月26日 15時0分
人は感情や経験によって非合理的な選択をしてしまう。早く取り組まないといけない課題があるのに、目先の楽しさを優先して先送りしてしまう経験は誰にでもあるはずだ。この先延ばし行動の「くせ」を理解し、職場の部下やメンバーをよりよい行動(選択)に誘導するにはどうしたらいいのか。
『リーダーのためのコミュニケーションマネジメント』の著者で、2000件以上の企業研修でマネジメントや人材育成の課題解決を支援した実績を持つ杉本ゆかり氏が解説する。
非合理的な行動を修正できる「ナッジ」
経済学では、人間は「合理的経済人」とよばれ、強い自制心をもちリスクを正しく考え、最善の行動をとることができると考えられている。しかし、現実には人間は合理的とは言い難い行動をとってしまうものだ。この非合理的な行動を修正できるのがナッジだ。ナッジは「肘でそっと突く」という意味であり、ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セイラーが唱えた理論である。
ナッジのフレームワークであるMINDSPACEは、「Messengers(伝える人)」「Incentives(誘因)」「Norms(規範)」「Defaults(初期設定)」「Salience(顕著性)」「Priming(先行刺激)」「Affect(感情)」「Commitments(約束)」「Ego(自我)」の頭文字からとったものだ。
これらは人間の非合理性を表したものであり、これらの特性は目標達成のために行動を変えることに活用することができる(下図)。本稿ではこのうち4つを例に、部下やメンバーの行動変容を促す方法を紹介する。
行動特性Messengers:リスクを読み違えてない?
Messengersとは、誰が情報を伝えるかによって判断に影響が出る行動特性を示す。人は判断するとき、思い浮かぶ記憶で対応する。そのため、テレビやSNSでインフルエンサーや信頼する人が発信した、入手しやすい情報を優先して判断してしまう。この特性を利用可能性ヒューリスティックと呼ぶ。
利用可能性ヒューリスティックは時に間違えた判断を導いてしまう。例えば、ニュースやSNSで取り上げられることは思いつきやすく、よく起こる事だと思い込む。
また、成功する事例ばかり見ていると、根拠なく上手くいくと思い込んでしまう。この場合、成功しかイメージできず、リスクが頭から抜けてしまう。このリスク軽視は決定的なミスを引き起こす。
スタートアップや新規事業でも、自分たちは順調にいくと錯覚することがある。特に伝統があり、長年好調な業績を重ねている企業は楽観的になり、リスクを軽視しやすいことが報告されている。
楽観的主義を抑える有効な手段
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