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ミセス「コロンブス」騒動における隠れた「勝者」 「古い価値観」はいつから「古い」とされるのか

東洋経済オンライン / 2024年6月27日 10時40分

そして現代では、この科学的常識の変化のスピードが、加速しようとしている。現代は、第4次産業革命と言われる、産業の基盤技術と、社会構造の変化が同時進行している時代である。生成AIやロボットの登場は、自然科学のみならず、人文・社会科学分野にも、決して小さくない影響を与えている。新しい技術的環境に合わせ、新しい社会制度や文化が必要とされているからである。

Mrs. Green AppleがMVで扱った「コロンブス」と「猿」は、まさにこの十数年で、常識がアップデートされたテーマであった。コロンブスはもはや虐殺者とみるべき存在であり、アメリカ大陸で紡がれてきた文明の破壊者である。猿は、有色人種を差別する意図を含むとみられやすい微妙なモティーフであり、おいそれと使ってはいけない、というのが一般的理解になろうとしている。

だからこそ、若者たちは驚いた。自分たちの時代をうたっているはずの人気ミュージシャンが、まさか、旧時代の人々がもつ“誤った昔の価値観”でMVを作るなんて。そのショックは計り知れず、かくも大きな炎上案件となってしまったのである。

かつて許されていたものが、明日にも「古い考え方」となり、社会からNoをつきつけられる。そんなゲーム構造のなかで、私たちは生きていくことが求められる。それが科学を土台とする近代という社会の基本駆動原理だからであり、そして今が科学の加速期だからである。

「コロンブス」騒動の隠れた勝者

我々が「コロンブス」の炎上から学ぶとすれば、それは、窮屈なようでも、変わりゆく常識の理解をアップデートしていかねばならない、ということだ。誰しも、もはや他人事ではない。いつなんどき、自分の考えが古くなってしまっており、炎上しないとも限らない。私たちは常に理解をアップデートし続けていかねばならない。

そして最後に。一見すると、誰も得をしなかったようなこの「コロンブス」騒動。だが、もしこの騒動で何らかの利を得た存在があるとすれば、それは誰だろうかと考えてみよう。今回の騒動を喜んだ人がいるとすれば、「コロンブスは新大陸を発見した偉人」ではなく、「コロンブスは虐殺者である」という認識を固めたいと願っていた人々であろう。先住民族の名誉のためか、歴史学的な見地からの正義感からか、はたまた自らの利益のためか。

かつてはマイノリティの側にあり、コロンブスの歴史認識をめぐるゲームチェンジを虎視眈々と狙っていた人は、この騒動に満足げに頷いていたに違いない。近代というゲームの勝者は、常に、その構造を打破するゲームチェンジャーなのである。

中川 功一:経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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