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「マウントを取る道具」として広まる歪な論文信仰 専門家は「思考と責任」の便利な外注先ではない

東洋経済オンライン / 2024年6月28日 11時30分

そうしたやり方を放っておくと、「今は感染症医学の発表ターンなので、黙って拍手だけしてください」というやり方がまかり通ってしまう。それは専門家どうしが不可侵条約を結んでいるだけで、なんの知的な生産性もなく、有事においては危険ですらある。

だからむしろ、異なる分野をまたいでも「この概念を共有すれば、互いに利用しあって議論ができますよね」と。そうした言葉を増やしてゆく作業が、知性をアウトソースせずに「専門家」とつきあうためには必要だと思うんです。

専門家に聞けば、それは正しい?

舟津:なるほど。私も似た問題意識があって、拙著にまつわることでも2つエピソードが挙げられます。1つは「モバイルプランナー」に関して、一度メディアから取材があったんです。私の知っていることを電話で話した後、先方に「ところで先生はモバイルプランナーの専門家ですか」と聞かれたんです。

與那覇:「モバイルプランナーの専門家」って(笑)。なんで大学にそんな人がいると思うかな。

舟津:そうなんですよ。困って「授業とかでは話しているんですが」と答えたら、「論文を書いていますか」と聞かれました。「いや、論文とかは書いていません」と。

與那覇:妙なところで業績重視なんですね。

舟津:だから、そうした風潮が世の中では広まってきているのだろうなと。SNSを見ると、論文バトルみたいなことをしている人たちがいますよね。

與那覇:私の昔の同業者だった、歴史学者にも多いですね。最近はSNSでは自説が劣勢で悔しいから「論破するための本を出すぜ!」みたいな、見ているこちらが恥ずかしくなるノリの人も。

舟津:「エビデンス出せ」「この論文だ」と言って、まさに知識の外注をしているわけですよね。それに対してすごく違和感があったんです。で、私は、論文ではないですけどひとまずは本を出したのでモバイルプランナーの専門家を名乗ってもいいのでしょうかね(笑)。

與那覇:確かに、次に依頼が来たら使えそうですよね(苦笑)。

舟津:そうなんですよ。ただ、それって本当に専門家なのかっていう。実は私の本は、書店さんによって置いてあるコーナーが全然違うんです。何の専門家が書いたかわからないような本になっている部分がある。

與那覇:おっしゃるとおり、もし自分が書店員だったら「若者論」「大学」「ネット社会」「就活」……あたりで配架を迷いますね。著者の専門的には「経営学」でも、あえて「社会学」の棚のほうが売れるかも、とか。

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