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「世界初の手術」成功した医師のシンプルな原動力 「名医ほど大きく切る」は患者のためにならない

東洋経済オンライン / 2024年6月30日 18時0分

成功をつかんだときこそ、次の成長へのステップが始まるという(写真:Graphs/PIXTA)

ほんのわずかなミスが患者の生死に直結しかねない心臓外科医。そんな心臓外科医の世界で、14年連続「The Best Doctors in Japan」に選出されている渡邊剛氏は、つねに新しい術式を切り開いてきた。そんな渡邊氏が幾多の困難を乗り越え、挑戦するモチベーションを維持し続けられた秘訣とは、いったいどんなものなのでしょうか。

*本稿は渡邊氏の著書『心を安定させる方法』から、一部抜粋・編集してお届けします。

「大きく切る」ことは本当に常識なのか

「名医ほど大きく切る」

医療を扱ったドラマや漫画で、こんな言葉を耳にしたことがある方もいるかもしれません。昔の医療現場では実際に、そんなふうに言われていました。

本当にそうだろうか? と、私はずっと疑問に感じていました。

バイパスを1本つなぐだけの手術で、なぜ大きく切る必要があるのか?

手術は、医師の固定観念にとらわれて行われるべきものではありません。患者さんの病気を治す、病状を改善させる、さらには術後の回復を早めることが大前提です。

ならば、切るのは最小限にとどめる必要があるのではないかと。

大きく切れば、手術はしやすい。でも、それでは患者さんの術後の回復が遅れる。小さく切るなかで的確な手術を行うことこそが、外科医に求められることだと思いました。

医療現場で患者さんたちに接していると、さまざまなことがあります。思わぬ事態で、心が痛くなったこともありました。

まだ私が医者になって間もないころのことです。胸骨正中切開(胸の真ん中で喉元からみぞおちまで、20~30センチ程度の皮膚を切開し、すぐ下の胸骨と呼ばれる骨を縦に切る)で、たった1本の冠動脈バイパス手術を受けた患者さんの回復が遅れたのです。

入院期間が長くなり、職場復帰までに時間がかかりすぎたため、その患者さんは会社から解雇を言い渡されてしまいました。理不尽なことだと感じると同時に、私にとって考えさせられる出来事でもあったのです。

「当たり前」と向き合うことで見えてくるもの

私は、冠動脈バイパス手術における小切開(胸の骨を全く切らず、肋骨の間から行う)のやり方を模索し、さまざまな方法を開発しました。以前なら正中切開をしていたのを、わずか6〜7センチ程度の切開での手術を可能にしたのです。

こうした技術を習得すると、それが当たり前になります。「これまでの大きく切るやり方は楽で簡単だったな」と思えます。

でもその簡単なやり方は、医師側の視点でしか考えられていなかったものでした。患者さんにとっては、体に大きな負担をかけていた方法にほかなりません。

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