昭和を冷たく笑う人たちが日本の分断を招く理由 「共通の記憶」なき私たちに未来は描けるのか?
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 13時30分
現代人が昭和を語るとき、戦前をさすことはあまりない。しかも、当たり前だが、昭和は元号だから日本に固有の時期をさしている。
おそらくは、奇跡的な復興を遂げたのち、悲しくも、長期にわたる停滞と没落の道をたどることになった戦後日本、失敗の象徴として、昭和は語られているのだろう。
戦後はいつ終わるのか。これは、繰り返し問われてきた問題だが、いよいよ私たちは、戦後の<切り離し>にかかっているのかもしれない。
「昭和かよ!」のひと語は、戦後日本の歴史をあざやかに切断する。返す刀で、「ダメだった人たち」を「あちらがわ」に閉じこめ、自分たちを新しい価値観で生きる、未来志向の「こちらがわ」の人間として描くことを可能にする。
一方には、世代間の意図的な断絶があり、他方には、レッテル貼りと近しい世代の否定、すなわち、他者の否定と自己の肯定がある。私に近い世代の人たちまでもが昭和を冷笑し、「こちらがわ」であることをほのめかす。こうして、世代間、世代内の分断が加速される。
だが、そもそも、否定によって定まる<己(おのれ)>、否定すべき価値でしか定義されない<己(おのれ)>とは、いったい何なのであろうか。「こちらがわ」で生きている人たちに、私たちは何者かであるという、集団内で共有された価値はあるのだろうか。
昭和は、よくも悪くも<共在感=共にあること>を実感できた時代だった。
戦争に敗れた国民は、飢えに苦しみ、痛みを分かちあいながら生きてきた。貧しさは、世代をこえた、国民に「共通の困難」だった。だから、人びとは「傷痍軍人」に同情し、涙したし、戦後に遅れて生まれてきた私は、それを不思議な気持ちで見ていたのだった。
戦後日本では、富裕層や大企業に重たい税が求められた。国税と地方税をあわせて、税率が9割に達する、そんな重税が富裕層に課されたし、法人税率も先進国で最高水準だった。戦争でもうけた人たちは、高い税をはらうべきだ、という「共通の価値」があったからだ。
だが、「共通の記憶」は、ときの流れとともに薄れていった。日本だけではない。平等主義で知られた北欧諸国でさえ、経済格差が広がり、その他の先進国でも、富裕層や大企業への減税が繰り返されてきた。
戦争の記憶、戦後の苦闘を礼賛したいのではない。
貧しさ、悲しみ、不公平への怒りといった「共通の記憶」を持てない私たちは、この社会を共に生きる仲間たちへの優しさを失いつつある。まるで、戦争という悲劇が、無関心という悲劇に置き換えられるかのようだ。私たちは、この現実と、どう向きあえばよいのか(連載第4回『娘が流すSnow Manに私が「日本の未来」感じた訳』参照)。
人びとは無意識に線を引く
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