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ゴーストタウン化させない「小樽」の"生き残り策" 観光都市から「健康で長く暮らせる街」へと進化

東洋経済オンライン / 2024年7月2日 10時30分

「櫛引さん、本当は俺、小樽に住んでいたいんだ。だけど、ここに住み続けるのは難しいから、息子の住んでいる札幌に行く。寂しいけれど」

Sさんは櫛引氏と長年付き合いのある患者で、櫛引氏にも寂しさはあった。だが、それと同時に焦りと危機感を抱いていた。「こうしてまた1人、小樽を愛する者が転出してしまう。このままでいいのだろうか」。

地形や環境が、住み慣れた街を離れる原因になっている――。そうならば、居住地はもちろん、医療機関や公共施設、商店が平地に密集したコンパクトシティにすべきではないか。そんな考えが氏の脳裏をよぎる。

小樽にもなだらかな土地があった

その頃、北海道済生会は移転を検討しており、候補地になったのが、市内で最も平地で、かつ面積のある小樽築港エリアだった。

当該地は旧・小樽築港機関区で、かつて蒸気機関車が保管されていた車庫。なだらかで、宅地や施設の開発に向いている。1985年に策定された小樽港港湾計画に基づき、ウォーターフロント開発され、現在は約120の店舗やホテル、巨大ショッピングセンターのウイングベイ小樽、高層マンションが並ぶ。

2013年8月に、まず小樽病院が移転。ここにリハビリ施設や健診プラザ、発達支援事業所などを併設したウエルネスタウンの創設を進めていく計画を構想する。

目をつけたのは、空き区画が増えていたウイングベイ小樽だ。「ここにウエルネスタウンを設ければ、コンパクトシティが実現でき、ウイングベイのゴーストタウン化から再生できるかもしれない」と櫛引氏。

空き区画だらけのショッピングセンター

ウエルネスタウン構想は、2020年7月頃に「小樽築港地区におけるウエルネスタウン構築に関する協定」を結び活動を活性化することになる。協定を結ぶにあたり、北海道済生会はウイングベイ小樽に話を持ちかけると、二つ返事だった。

ところが、当時の市の関係者からは思わぬ反撃に遭う。

「市に計画アドバイザーとして協力を仰ごうとしたら、『私たちに何をやれというのですか』と答えられましてね」と櫛引さん。前例がなく、形の見えないウエルネスタウン構想に対して、市の関係者はどこか躊躇をしているようだった。

やりどころのない悔しさと悲しみに暮れた櫛引氏は、行政の力を借りずして、まずはウエルネスタウン構想に着手した。

以来、櫛引氏らは社会保障制度の事業サービス外であるフードバンクや、地域共生事業に精を出す。こうして引きこもりがちな高齢者に、居場所を作っていった。

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