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「新宿野戦病院」クドカンの原点回帰を予感する訳 「不適切」と「虎に翼」の風穴のさらなる拡大へ

東洋経済オンライン / 2024年7月3日 13時0分

『不適切にもほどがある!』で特に印象に残ったのは、3月15日放送の第8回「1回しくじったらダメですか?」で描かれたキャンセルカルチャー批評だ。

番組を見た、たった数名の反応がコタツ記事によって広まり、実際には放送を見ていない人々による否定的コメントがSNSに氾濫した結果、スポンサーの不買運動につながっていく――。

テレビ局のリスクマネジメント部長・栗田(山本耕史)はこう言い放つ――「分かったでしょ、もはやテレビが向き合うべきは視聴者じゃない。見てない人なんです」。

このあたりは、作品についてSNSでさんざん、やいのやいの言われ続けたはずの宮藤官九郎はじめ制作スタッフの心根が反映されているのだろう。

しかし、過度な「コンプラ」への対抗心をそこかしこに投影した『不適切にもほどがある!』は大いに話題を呼んだ。そして、日本中に広がっていた、「不適切」を表面的に是認して拡散しがちなムードに風穴を開けた。

そして今、テレビ界が開き直って、風通しが少しずつ良くなりつつある――。

宮藤官九郎が「いちばんやりたかった作品」

さて、宮藤官九郎の最高傑作を聞かれたら、『IWGP』に加えて、昨年ディズニープラスで配信され、この4~6月にテレビ東京でも放送された『季節のない街』を挙げたいと思う(その意味では宮藤官九郎ドラマは「中3か月」ではなく「連投」だ)。

黒澤明映画『どですかでん』(1970年)の原作となった山本周五郎の小説を宮藤官九郎がアレンジ。(明らかに東日本大震災後を思わせる)「仮設住宅」を舞台に、めっぽう個性的な弱者たちがワチャワチャする物語。

そう、宮藤本人がディズニープラスの番組公式サイトで「どうしよう。今回は自信がある。紛れもなく、いちばんやりたかった作品で、これを世に出したら、自分の第二章が始まるような気がしています」と語った『季節のない街』は、「弱者の物語」だったのだ。

この表現が若干、宮藤官九郎の作風には不似合いだとするならば、「世間からはねつけられている弱い立場の連中は、バカや貧乏も多いけれど、実はめちゃくちゃ人間臭くて魅力的なんだ」という、山本周五郎から古典落語にまで通底するメッセージを描いたドラマ。

そう考えると、『不適切にもほどがある!』も、先の第8回に象徴されるように、令和という時代の行き過ぎた圧力に押される「弱者」を描いたドラマだったといえる。

「本当にあること」を描く

宮藤官九郎自身は、こう語っている(WEBザテレビジョン/6月26日)。

――(社会問題をコメディーにするにあたって、気をつけていることはありますか?)それはでもしょうがないですよね。今そういう意見を怖がっていたら、「何にもできなくなっちゃうんだろうな」って思いますから。本当にあることをただ「本当にあるんだよ」って言いたいだけなんですけどね。

そう、期待するのは、「本当にあること」の中で立ち込める弱者の人間臭さを、いきいきと、ぬけぬけと描くドラマだ。結果的に3カ月後、テレビ界、ひいてはカルチャー界が、さらに開き直って、さらに風穴が大きくなっているような――。

そんなドラマの舞台として、新宿歌舞伎町は、最高に不適切……いや、適切だ。

とりあえず『新宿野戦病院』スタッフは、まず世間の声を気にしないことから始めればいい。だってあれこれ騒ぐ連中は、ドラマの視聴者じゃない、実はちっとも見ちゃいないのだから。

スージー鈴木:評論家

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