1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

アルバイト25年、時給1200円から上がらない現実 声優しながらバイト掛け持ち、睡眠は5時間未満

東洋経済オンライン / 2024年7月5日 8時0分

有給休暇の取得についても「僕が休むと別の誰かに負担がいくという空気の中では取りづらいです」という。IT関連会社にはかろうじて買い取り制度があるが、居酒屋のほうは毎年10日近い有給が消滅していく。

「(残業代も有休も)法律で保障された権利なんですが、実際には職場の人間関係を壊してもいいくらいの覚悟で“強く主張”しないと取れない。そうなると、いくら法律的に正しくても、行使はしづらいですよね」

ではどうすればいいのか。トモヤスさんは「法律で強制力を持たせればいいと思うんです」と提案する。労働者の側が請求、申請するのではなく、企業側の義務にすればいいという。私の取材実感でも、言い方は悪いが、口を開けて待っているだけで労働者の権利を享受できるのは、大手企業の正社員の中でも恵まれた職場に限られる。よくも悪くも「和をもって貴しとなす」という価値観が浸透している日本社会において、この提案はおおいに検討する価値があるのではないか。

また、トモヤスさんにとっては社会保険に加入できないことも長年の懸案だった。非正規労働者への適用拡大が進む中で昨年、IT関連会社のほうでようやく健康保険と厚生年金に加入することができた。しかし、「将来のことを考えたら、もっと早く加入したかったです」。

トモヤスさんの話からは、非正規労働者のセーフティネットの構築が置き去りにされてきたことがよくわかる。トモヤスさんには付き合っている女性がいるが、彼女も派遣社員。2人とも不安定雇用であることが、結婚に踏み切れない理由のひとつだという。

“売り手市場”の実感はない

一方でトモヤスさんは、いずれの職場でも勤続年数は長く、新人の教育係や店長業務を任されることもあったという。この間、声優をやめて正社員の仕事を探すという選択肢はなかったのか。私が尋ねると、トモヤスさんは「僕の年齢だと、正規雇用で働けるまともな会社を見つけるのは難しいです」という。

業界を去っていった知人は大勢いるが、彼らの多くは就職活動に苦戦しているし、ようやく見つけた転職先が悪質企業だった、セクハラに遭ったという話も耳にする。最近は人手不足で“売り手市場”というニュースも聞くが「僕が知る限りそんな実感はないです。転職のリミットは30代前半くらいじゃないでしょうか」。自分はそのタイミングを逸したという自覚がある。ならば「細い道ではありますが、この世界で成功したい」とトモヤスさんは言う。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください