録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか
東洋経済オンライン / 2024年7月5日 7時30分
昨年3月に全額が毀損したクレディ・スイスのAT1債をめぐり、債券を販売した三菱UFJモルガン・スタンレー証券に対して、新たに14人の投資家が13億6588億円の損害賠償を求めて東京地裁に集団訴訟を起こした。
【図でわかる】日本のAT1債は投資家のモラルハザードを起こしやすい
6月28日に提訴した今回の訴訟は、2023年8月と12月に続く第3弾となる。これで三菱UFJモルガンを訴えた原告の数は106人に上り、賠償請求金額は82億9974万円に拡大した。代理人弁護士の山崎大樹氏は「日本でこれほど多くの投資家が、この規模の損害賠償額を求めて証券会社を提訴するのは過去に例がないのでは」と話す。
CET1のことしか「聞いてないです」
クレディ・スイスのAT1債は国内で約1400億円が販売され、そのうち三菱UFJモルガンが7割弱に相当する約950億円を販売していた。5月13日には、全額毀損後に録音された三菱UFJモルガンの営業担当者と顧客による複数の会話のやり取りが、原告側から新たな証拠として提出されている。
そのやり取りを見ると、三菱UFJモルガンの営業担当者が商品性を正しく理解することなくクレディ・スイスのAT1債を販売していた疑いが浮かび上がる。
顧客「CET1のことしか聞いてないでしょう」
営業「聞いてないです」
顧客「(特殊性のあるAT1債だというのを)営業さんの方に当然伝わってないでしょ、そういう話」
営業「そこまでは伝わってないです」
顧客「営業としてはそれを知らずに『大丈夫だろう』としてお勧めしてたと。でなきゃモルガンさんだけであれだけの金額売らないでしょう」
営業「売らないですね」
会話の中で顧客が言う「CET1」とは、「普通株式等Tier1」と呼ばれる銀行の中核的な自己資本のことだ。AT1債は、銀行が破綻する前の段階で投資家が損失を負う仕組みで、少なくともCET1比率が5.125%を下回ったら、元本の毀損か、株式に転換される商品性であることが求められる。クレディ・スイスのAT1債は「CET1比率が7%を下回った場合」に元本が全額毀損する仕組みになっていた。
ただし、クレディ・スイスのAT1債は、破綻前に元本が毀損するトリガーはこれだけではなく、「企業存続事由」も定められていた。具体的には、規制当局が発行者の破綻を防ぐために公的部門の特別支援が不可欠だと判断し、その支援を発行者が受け入れた際も元本が全額毀損する。
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