全世界化した資本主義が向かう「3つのシナリオ」 現代の「知性」は資本主義の暴走を止められるか
東洋経済オンライン / 2024年7月9日 10時30分
宇沢は以下の3つを、その具体的内容として挙げています。
①自然環境(山、森林、川、湖沼、湿地帯、海洋、水、土壌、大気)
②社会的インフラ(道路、橋、鉄道、上・下水道、電力・ガス)
③制度資本(教育、医療、金融、司法、文化)
こうした宇沢の経済学は、国連のSDGsの思想につながるものだと考えられます。
残念ながら宇沢の経済学に後継者はいませんでしたが、東京大学のゼミで彼の指導を受けた同大学名誉教授の岩井克人がその精神を引き継ぎ、『ヴェニスの商人の資本論』や『会社はだれのものか』など、多くの著作や講演で、資本主義に内在する不平等や経営倫理の問題を取り上げています。
また、アメリカで宇沢の薫陶を受けたコロンビア大学教授でノーベル経済学賞を受賞しているジョセフ・スティグリッツは、市場原理主義的な考えに異を唱え、『スティグリッツ Progressive Capitalism(プログレッシブ キャピタリズム)』の中で、大多数の国民が上位1%の富裕層から置き去りにされている現状を是正し、万人を幸福にするための「進歩的資本主義」というモデルを提示しています。
マルクスの研究成果は『資本論』にとどまらず、現在、彼の死後に残された膨大な著作、原稿、草稿、メモ、手紙などを整理するMEGA(Marx-Engels-Gesamtausgabe)プロジェクトが進行中ですが、宇沢にも大量の未整理の論文が残されています。
これらの整理は、宇沢国際学館を主催する占部氏と、市民講座で宇沢の講演を聴いたことをきっかけに数学から経済学に転身した帝京大学教授の小島寛之によって行われています。その他、ゲーム理論を専門とする大阪大学教授の安田洋祐が、宇沢経済学をもうひとつの研究テーマとして、市場がもたらす不均衡の問題に取り組んでいます。
こうした修正資本主義の動きに対し、それらは見せかけだけのポーズにすぎず、「SDGsは現代のアヘン」だとして、脱成長・脱資本主義を訴えているのが東京大学准教授の斎藤幸平です。フンボルト大学哲学科で博士を取得し、マルクス研究で最高峰のドイッチャー記念賞を歴代最年少の31歳で受賞した斎藤の『人新世の「資本論」』は55万部を超えるベストセラーとなり、世界中で翻訳され読まれています。
斎藤は、MEGAプロジェクトの日本人ただ一人の参加者であり、マルクス=ソ連型の共産主義というステレオタイプの理解を退け、マルクスが晩年に打ち込んだ循環型社会の実現可能性を探っています。
この記事に関連するニュース
-
国際政治を科学する。理論とデータで導く国際平和への処方箋
PR TIMES / 2024年7月12日 14時40分
-
早稲田大学の研究者が学問の魅力を語るPodcast番組 "博士一歩前" 国際関係論シリーズ新エピソードを配信
共同通信PRワイヤー / 2024年7月11日 11時0分
-
平坦すぎる毎日、衰えていく自分に絶望する必要はたぶんない、きっとパーティは勝手に向こうからくるから(後)
OTONA SALONE / 2024年7月3日 11時51分
-
売り上げ重視の出版業界と、作法が厳しい学問の世界は、どちらが「自由」なのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月19日 11時0分
-
みらいリレーションズと東工大 大橋研が連携し「トランジションデザイン 」を用いた新たな事業開発方法論の構築を目指す
PR TIMES / 2024年6月18日 21時40分
ランキング
-
1CoCo壱「わずか3年で3回目の値上げ」は吉と出るか 過去の値上げでは「客離れ」は見られないが…
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 17時30分
-
2旅客機用の燃料不足で緊急対策 輸送船を増強、運転手確保へ
共同通信 / 2024年7月16日 23時42分
-
3「日本でしか手に入らない」カレーパン、なぜ外国人観光客に人気? チーズ入りカレーパンに「私の心臓は高鳴った」【Nスタ解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月15日 22時0分
-
4iPhoneの「ホームボタン」が消えていく深い意味 「心の支え」だった人はどうすればいいのか?
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 13時0分
-
5中国は不動産バブル崩壊で「未完成ビル」と「売れ残り住宅」の山→政府当局が打ち出した“支援策”の裏にひそむ「重大な懸念点」【現地駐在員が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月15日 8時15分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください