「30年で貧乏になった日本」で若者に起こった変化 気がついたら日本のプレゼンスも低下していた
東洋経済オンライン / 2024年7月11日 12時40分
その後も20年近く日本はアメリカに続くGDP世界2位の経済大国だった。でも、もう世界に向けて「日本はこうやって生きていく。みんなも日本に従え」という強い言葉を発することはありませんでした。
市民の規格化が過剰なまでに進行した
――政府や政治家のみならず、メディアもそして個人も「声を上げること」のリスクが大きくなっている感じがします。人と違うことを、声を大にして主張することが損になってしまうというか。
もともと日本社会は同調圧力が強い国でしたが、バブル崩壊以後の「失われた30年」に市民の規格化は過剰なまでに進行したと思います。これは日本が貧乏になったせいです。
「パイが縮んでくる」と人々は「パイの分配」についてうるさいことを言い出す。自分の取り分を確保するためには、他人の取り分を削らなくてはならないと考えるからです。
どうやって他人の取り分を減らすか。そのために、メンバー全員を何らかの基準で格付けして、スコアの高いものにたくさん与え、スコアの低いものの取り分を減らす。それが一番フェアな分配方法だという話になった。
格付けに基づく傾斜配分という発想は、一見すると合理的に見えますけれど、実はかなり危険なものです。というのは、全員を格付けするためには、あらかじめ同質化する必要があるからです。全員に同じことをやらせないと、数値評価はできません。
だから、「誰でもできることを他人よりうまくできる人間」にハイスコアを与えるというルールを採用した。「生産性」とか「社会的有用性」とか「所得」とかあるいは端的に「成功」を数値化して、それを基準に国民を格付けすることにした。でも、すでに金や権力を持っている人間にハイスコアを与え、貧しい人に罰を与えるような傾斜配分なら、ただ格差が拡大するだけにしかならない。
若い人たちが「浮く」ことに感じている恐怖
それに、全員が同じことをやって、ただ相対的な優劣を競っているだけの社会で「新しいもの」が生まれるはずがありません。お互いの足の引っ張り合いをし、「出る杭」を打ち、「水に落ちた犬」を叩く……だけしかやっていないんですから。そんな社会で自分の見識を貫こうとするのは難しい。少しでも人と違うことを言ったり、したりすると弾き出される。
だから、今の若い人たちは「浮く」ことを病的に恐れています。集団から「浮く」というのは、要するに「競争から脱落する」ことです。だから、デモもストも起きないのです。そういう抵抗の運動を始めるときは、最初に誰かが「誰もしないことをして、誰も言わないことを言う」というリスクをとらなければなりません。
でも、抵抗の旗を立てても、誰もついてこなければ、その人は1人だけ「浮く」ことになる。だから、怖くて誰もあえて戦おうとしない。そうやって学生運動もなくなったし、労働組合も機能しなくなったのです。
倉沢 美左:東洋経済 記者
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