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金日成死去から30年・韓国人が流した涙の意味は 南北分断70年超、統一意識も薄れつつあるが…

東洋経済オンライン / 2024年7月13日 9時0分

新聞社のオフィスに行くと、改めて学生たちの声を聞きに行くことになり、学生街に戻った。

「首脳会談が決まっていただけに残念でならない」「南北のバランスが崩れて韓(朝鮮)半島が不安定化しないか心配」といった声のほか、「生まれたときから南北に分断されていたので、特別な感情はない」という意見まで、さまざまだったが、今度は涙を流している人を見つけることはできなかった。

その後で南大門市場に移動した。「失郷民」と呼ばれる、北朝鮮側を後にして韓国に来た人々が闇市を始めて大きく広がったとされる市場は、異様な空気に覆われていた。

商いをする人に飛び込みで尋ねてみると、1人目の女性がまさに失郷民だった。

女性は話をしているうちに涙声になり、嗚咽し始めた。率直に言って、細かい話は聞き取れなかったが、北にいる身内の話をしているのはわかった。

途中から近くの商店主らしき男性が日本語で通訳してくれた。やはり女性は、離散した家族との再会を心待ちにしていたが、金日成氏の死去により、思いがかなわぬことを嘆いていた。

この男性によると、死去の一報が流れた直後、あちこちに涙を流す人がいたという。「北の体制を認めるわけではないが、金日成という存在は特別な重みがあり、最高指導者の死に、われわれはいろんな思いをめぐらせる」。そんな趣旨の説明を男性はしてくれた。

さらにそれから1カ月ほど後、統一問題にも詳しい韓国紙の幹部に「金日成氏死去時の韓国の市民の涙をどう考えればいいか」と聞いてみた。その幹部は「韓国人の北韓(朝鮮)観は人によって異なる。憎悪や失望、あるいは憧憬かもしれない。涙の意味もさまざまだろう」と語った。

多様化する韓国の統一観

あれから30年。北朝鮮では金主席の息子である金正日氏も死去し、金正恩氏が3代目として権力を世襲した。

カーター氏の訪朝で危機を回避した後、核兵器製造への転用の可能性が比較的低いとされた軽水炉型原発の供与を受ける代わりに北朝鮮が核開発を凍結する「米朝枠組み合意」が結ばれたが、やがて破綻した。

2003年から2007年まで、6回にわたって行われた日米中ロに南北朝鮮が加わった「6者協議」もうまくいかず、北朝鮮はついに事実上の核保有を実現した。

かたや韓国では、左右それぞれの志向を持つ政権が、対話と圧力の配分を変えた統一政策をくり出して迫ったが、結果として目的を達成できたとは言えずに終わってきた。

現在の尹錫悦政権にいたっては、過去に例のないほどの対北強硬策をとり、過去30年間、どの政権も手をつけることはなかった民族共同体統一方案の変更に着手しようとしている。

これらの強硬姿勢に北朝鮮は強く反発し、ついに金正恩氏が自らの口で、韓国は同族、同質関係ではなく、「最も有害な第1の敵対国家、不変の主敵」とまで述べるに至った。

「本音では統一を願っていない」?

日本ではしばしば「韓国の大半の人は本音では統一など願っていない」という議論が聞かれる。確かに朝鮮戦争の休戦(1953年)からだけでも70年以上が経ち、朝鮮半島をとりまく国際情勢が激変するなか、韓国の人々の統一観が変化してきたのは言うまでもない。

同胞意識からの統一よりも、地域の安定を望むための共生を願う人々が増えてきたことも世論調査などで明らかになっている。ただ、安易な統一否定論もまた、現実を言い当てていないように思う。それぞれの統一観は、隣国から見て、すぐに合点がいくほど単純ではなさそうに映る。

30年前、韓国の人たちが流した涙の意味を、今も考えている。

箱田 哲也:朝日新聞記者

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