なぜ先生は学生を「怒れなく」なっているのか 教育現場を弱体化させている1つの「妄想」
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 14時0分
例えば、私の記事や本で「べき」という言葉を用いるだけで否定的に捉えられてしまう、という経験がありました。「若者はこうあるべき」と言った瞬間に、それが押しつけと見なされ、間違った教育だと批判されるのです。これが頻繁に見られる現状では、「べき論」を語るのが不可能になっていきます。
拙著の基本スタンスは、ピュアな若者たちが大人の行動を真似しているのだ、というものです。脱権力についても同様で、大人が「べきとか言ってる偉そうな人は嫌いだ」とか「権力を振りかざす人は嫌だ」というロジックで他人を非難する姿勢を、若者は模倣していると思います。本当に偉い人が、偉いから偉そうに振る舞っていたら、それを「偉そうだ」「権力を振りかざしている」と非難し、不快だからやめろと騒ぐ構図がある。まさにパワーハラスメントになるわけですよね。
そうなると、たしかに大学の先生って権力の塊であって、何百人もの学生を前にして一段高いところから講義をするわけですから、講義自体が権力の行使と見なされることがあります。でも別に、日常的に権力を振りかざしてハラスメントをしているわけではないんです。当たり前ですけど。
つまり、権力を行使して利己的な振る舞いをする以前に、権力をもつこと自体が糾弾される状況になっている。「べきだ」って言った時点で権力性を感じさせるからダメだ、となってしまう。そして「大学の先生は偉そうだからダメだ」という空気が強まり、動物性を発揮して子どもを抑えることも許されない。八方ふさがりです。
最も欺瞞があるのは、そうやって脱権力を叫んで権力を叩く側の人が「べき論」を駆使していることなのですが。大学の先生が「べき」って言っただけで嫌な顔をする人が、大学の先生はこうあるべき、と平気で押し付けてくる。脱権力を叫ぶ人が最も実効的に権力を行使しようとする転倒が、現実に起きてしまっています。
(7月17日に配信される第2回に続く)
鳥羽 和久:教育者、作家
舟津 昌平:経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師
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