東芝の「鉄道自動運転」技術、実用化へ一歩前進 長野電鉄と実証実験、基本動作の検証が完了
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 7時0分
そのために大きな力を発揮するのは、車両前面に設置されたステレオカメラとライダー(LiDAR)である。ステレオカメラとは2つのカメラの視差から距離を計測できるカメラで、ライダーとは近赤外レーザー光を照射して、その反射光のタイミングを解析して距離を計測する装置だ。夜間などステレオカメラが苦手な状況では、ライダーが威力を発揮する。
走行中はGNSS(汎地球測位航法衛星システム)を活用しながら、ステレオカメラとライダーがランドマークとなる対象物の位置を確認し、地図データベースと照合して車両の正確な位置を検知する。トンネルの中や高架下などGNSSによる位置測定が困難な場所では、慣性センサを活用して列車の位置を推定する。地図データベースには位置ごとの最適な速度情報も組み込まれており、従来は運転士の経験に頼っていた速度制御を自動で行うことができる。
駅に近づくとステレオカメラやライダーが停止位置目標を認識し、GNSSや慣性センサを使って、自車の位置を把握、さらに速度の情報も活用して運転支援装置が加減速を制御し、停車駅の正確な場所で自動停止する。「実証実験では±50cm以内の停止位置精度を確認した」という。
自動運転で課題となるのは線路内への人や物の侵入に対する対策である。ゆりかもめのように全線高架にでもしない限りそれらを防ぐことはできない。既存の路線を自動運転に切り替えるなら、少なくとも運転士と同レベルの支障物検知システムを備える必要がある。
東芝の支障物検知システムは、ステレオカメラとライダーによる情報を線路地図データベースと照合して走行空間を認識し、人や物といった支障物の有無を検知する仕組み。支障物がなければそのまま走行し、問題があれば係員に音や光でブレーキ操作を促し、手動で停止する。
実証実験では夜間でもステレオカメラが200m先の人を検知することに成功したという。夜間に人間が通常視認できるとされる距離は110〜130mとされており、それよりも長い距離を検知できたことになる。しかも「運転士による視認よりも早く検知できた」と担当者は胸を張る。雨や霧といった従来は運転士が目視で運行停止を判断する状況ではライダーが前方の視界を判定して自動で運行停止する。
地方鉄道にとって「今後必要な技術」
同社では2015年から自動運転システムの開発に着手。2021年度から長野電鉄の協力を得て、須坂―信州中野間で実証実験を実施している。同区間は路線長13km。7つの駅があり、踏切数も54と多い。長野電鉄と組んだ理由について、「雪が降り、逆光もあるなど、いろいろな場面がある区間が実証実験に適している」と担当者が話す。一方で、長野電鉄は東芝からの申し出に対して「自動運転は今後必要になってくる技術であり、お手伝いしたい」(鉄道事業部技術課)。
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