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誰もが振り向く姿になった33歳彼女が得た優越感 小説『コンプルックス』試し読み(2)

東洋経済オンライン / 2024年7月21日 19時0分

だからこそ、この手の美人な客が来た時は、

“このお客さんから、66日以内に予約が入るのだろうか?”

と、そう思いながら接客をするのであった。

「本当にありがとうございます。この髪型とても気に入りました」

笑顔でそう言いながら帰り支度をする美女に光太は声をかける。

「次のご来店の予定って考えておられますか!? ウチのお店、極端にリピートのお客様が少なくて。新規っていうか一見のお客様ばっかりなんですよね。良ければまた担当させて下さい」

そう話す光太に本当にブサイクだった自分の記憶が削除されていることを確認した祐子はニコリと笑った。

「はい。是非またよろしくお願いします」

そう言い残し、そそくさと祐子はお店を出た。

視線が明らかに今までと質が違う

美容室・ナルシスの鏡から浅草駅まで真っ直ぐ帰るのがもったいないと思った祐子は、わざわざ人通りの多い観光スポットである浅草寺の敷地の中の道を通って帰ることにした。

祐子は通る人、通る人からの視線が明らかに今までと質が違うことを実感していた。今自分に向けられている視線は、野生動物が獲物を狙うような感覚を抱かせる視線。

それをオブラートに包むのが上手い男もいれば、オブラートに全く包めない男もいる。しかし共通しているのはこの容姿に多くの男の本能が強く刺激されているということである。

こういった男の本能を含んだ視線のビームを浴びてきた分だけ女は自分の存在価値に対する評価を無意識に引き上げているのかもしれない。

祐子はほんの数分、人通りの多い道を歩いただけでそう感じた。

なんせ“ブサイクは男の視界に入らないこと”を祐子は今までの人生で嫌になるほど経験してきたわけである。

ネイルサロンで働いていた頃。たまに来店する男性客の視線は、決まって爪を削っている目の前にいる自分ではなくて、奥の席にいる美羽の方を向いていた。

合コンで目の前に座った男は耳と口だけで自分と会話をしていて、視線の先を追うとそこにはいつも楽しそうに笑う美人の美羽がいた。

そのたびに祐子は、

“ブサイクは男の視界に入らない”

と実感するのであった。

どういうカラクリで視覚情報が本能的な欲求に働きかけるのかは祐子は詳しくはわからない。しかし、浴びる視線の量と質というのは誤魔化しが利かないと、祐子はこの時思った。

祐子が婚約者の友哉の綺麗事が大嫌いだった理由もそれである。

“外見より中身”

そんな綺麗事を言いながらも、一緒に街を歩いている最中にすれ違う美女に友哉の視線を奪われる瞬間を祐子は何度も確認していたのだった。

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