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誰もが振り向く姿になった33歳彼女が得た優越感 小説『コンプルックス』試し読み(2)

東洋経済オンライン / 2024年7月21日 19時0分

そしてそのことを誤魔化すように、友哉は決まってその後すぐ祐子の方をずっと見つめ直す癖があった。これが祐子にとってはたまらなく不快だったのである。

まだそれなら自分に正直な男の方がいい。

「オレは可愛い子が好きだ」

そう言える男の方がマシなのだ。

どこから湧いてくる正義感なのか?

“オレはブスにもこんなに優しくできるんだぜ”

友哉のコミュニケーションには必ずそういった自己主張が付きまとった。

“幸せ過ぎる”

しかし、そんな何の説得力もない自己主張をする友哉に対して本心を言えない自分も結局は友哉と同じ嘘つきだから仕方ない。祐子はそういった自己説得を続けながら友哉との関係を続けてきたのである。

そんな醜かった頃の記憶を思い出しながら祐子はいつしか浅草駅に到着していた。

銀座線に乗り込み、自宅の最寄駅である上野駅へと向かった。電車に乗っている最中も感じる視線が過去の自分とはまるで違うことを再確認した。

そして電車の窓に反射する美し過ぎる自分に見惚れて恍惚状態のまま、あっという間に上野駅に到着した。

“幸せ過ぎる”

ただ美容室から上野駅まで帰ってきただけなのに。

まだ何も大きな出来事は起きていないのに。

祐子はそう強く実感していた。

ただ存在しているだけで美人はこんなにも幸福なのか。ほんの数分の移動の間だけでもブサイクと美人の幸福度の違いを祐子は強烈に実感していたのだった。

祐子は上野駅の不忍口の方から駅を出て上野広小路の方面へ歩みを進めていた。

祐子は先ずどうしてもこの美貌を手に入れて最初に行きたい場所があった。そこは祐子の行きつけのシーシャバー「chill chillミチル」であった。祐子が働くネイルサロンの近所でルーフバルコニーに観葉植物がお洒落にレイアウトされている祐子の憩いの場所であった。

美貌を手に入れた今だからこそ

そのシーシャバーに祐子が真っ先に行きたかった理由はとてもシンプルである。そこのシーシャバーには明らかに垢抜けたハイスペックな男性客が集まってくるからである。そして、その店の最大の特徴は、洗練されたハイスペ男性客とその男に似つかわしい女性客がリアルマッチングしていることにある。

もちろん祐子は、その恩恵を享受したことはなかった。だからこそ、美貌を手に入れた今、そんなシーシャバーで恩恵を受けてみたかったのである。

シーシャバー「chill chillミチル」の暗黙の出会いのシステムは以下の通りである。

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