「多発する炎上」が社会を滅亡させる宿命的な筋道 人類の脳の発達が生み出した「正義中毒」の末路
東洋経済オンライン / 2024年7月26日 18時0分
社会生活を送る中で、他人に対して怒りや不満を感じてしまうことは、誰にでもあるもの。しかし、「間違ったことが許せない」「私は正しく、相手が間違っているのだから、どんなひどい言葉をぶつけても構わない」というような思考パターンが止められなくなってしまうのは、「許せない」が暴走してしまっている「正義中毒」の状態です。
なぜ私たちは、他人に強い怒りや憎しみを感じてしまうのか。その理由を、脳科学者・中野信子氏の著書『新版 人は、なぜ他人を許せないのか?』より、人類の脳と正義中毒の関係を紐解きながら解説します。
自分と異なるものをバカにし合う不毛な社会
SNSで飛び交っている、正義中毒者がなぜか頻繁に使用する単語は「バカ」です。
自分が絶対的に正しいという過剰な思い込みから、異なる考えを持つ他人をバカと決めつけ、攻撃(バッシング)を加えます。
災害時などに見られる過剰な不謹慎叩きや、芸能人の不倫叩きも、こうした見方から再考すれば、「あいつはバカだ」「あんなバカなことをするやつは許せない」「叩かれて当然だ」という、正義中毒者の暴走と見ることができるのです。ネットの登場とSNSの普及によって、私たちはより正義中毒にかかりやすくなりました。
また、中毒症状が全世界に公開される場が出現してしまったことで、誰がバカなのか、誰が自分よりも劣っているのかを常に気にし続けなければならない状況が派生的に誕生しました。
自分がバカだと思われることを恐れ、自分がターゲットにならないために、パッシブ(受動的)に他人を叩く行為に加担する(あるいはスルーして助けない)という現象が見られるようになったのです。
これは、自分がいじめのターゲットにならないように、いじめに加担する構造とよく似ています。
1984年、ニュージーランド・オタゴ大学のジェームズ・フリンが提唱したところでは、人類は20世紀以降、IQ(知能指数)を年々向上させていると言われます。1932年と1978年のIQを比較すると13.8ポイント高くなっており、1年に0.3ポイントずつ上昇していくというのです。これは「フリン効果」と呼ばれています(The mean IQ of Americans:Massive gains 1932 to 1978. (Flynn, J.R.(1984).)Psychological Bulletin,95(1), 29-51.)。
栄養状態の改善や、情報、知識を得るためのツールの充実によって人は着実に知能が上がっているはずなのに、互いをけなし合い、不毛に消耗し合う正義中毒がどんどん重篤になっているというのは、なんとも皮肉な話です。
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