「最低賃金50円引き上げ」時代遅れの根拠なき議論 「経営者代表」を議論の主役にしてはいけない訳
東洋経済オンライン / 2024年7月30日 9時0分
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。
退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼の著書『給料の上げ方――日本人みんなで豊かになる』では、日本人の給料を上げるための方法が詳しく解説されている。
「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」
そう語るアトキンソン氏に、これからの日本に必要なことを解説してもらう。
「50円引き上げ」の結論自体は評価できる
中央最低賃金審議会は、2024年の引き上げの目安を50円と決定しました。
【グラフ】「中小企業は支払い能力に乏しい」という主張に根拠はあるのでしょうか?
2024年の最低賃金の引き上げにより、全都道府県で2025年に最低賃金が1000円を超える可能性が高まっています。現時点で1000円を超える都道府県は8つですが、2024年には少なくとも16都道府県に増える見通しです。
日本の最低賃金は都道府県ごとに設定され、経済状況に応じてA、B、Cの3つのランクに分類されています。各ランクの最低賃金引き上げの目安額は中央最低賃金審議会によって示されます。
2024年の目安額は全ランク共通で50円の引き上げとなり、地域間の賃金格差の是正を図る大きな一歩となりました。
過去には、最高の最低賃金と最低の最低賃金の格差が広がっていました。1997年には100円だった差が、2018年には223円まで拡大しました。今回の統一された引き上げ幅は、東京都にとって4.5%、最下位の岩手県にとっては5.6%の引き上げとなり、地域間格差の縮小となります。
実際の引き上げ幅は、各都道府県での議論を経て決定されますが、全国加重平均が1054円を超えることが予想されます。これは過去の事例から、引き上げ幅が目安より大きくなることが多いためです。
「データに基づいた議論」ができていない
問題は、中央最低賃金審議会では経営者代表の意見がしばしば具体的なデータに欠けるため、議論が抽象論に終始することです。
たとえば「価格転嫁ができていない企業が相当数いる」との主張がありますが、具体的な企業数や業種ごとの詳細なデータが示されていません。このような主張には、統計的なデータが不可欠です。
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