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「ダイエット薬」実はあまり知られてないメリット 生活習慣病の治療パラダイムが変わっていく

東洋経済オンライン / 2024年7月31日 10時0分

アメリカのデータベースをもちいた研究結果が2023年11月に発表されている。GLP-1作動薬のリラグルチドとセマグルチドで治療を受けている人の消化管に対する副作用を、同じく肥満の治療薬だがGLP-1作動薬ではないブプロピオン-ナルトレキソンで治療している人と比較した。膵炎と腸管閉塞、腸管麻痺の発生率がGLP-1作動薬使用者で高かった。膵炎の発生率(1000人年当たり)は、セマグルチドで4.6、リラグルチドは7.9、ブプロピオン-ナルトレキソンが1.0であった。

薬には副作用がつきものであり、リスクとメリットを天秤にかけて治療に用いるか決め、副作用が起きていないか症状や血液検査でチェックする必要がある。セマグルチドは、1000人の人が1年間治療に用いたら、4.6件の膵炎が発生するということであり、頻度は決して高くないものの、膵炎は重症となると治療に難渋し、ときに致命的となる厄介な病気だ。医師の監視下で治療に用いるべき薬剤であることには間違いない。

簡単な問診でGLP-1作動薬を処方し、副作用が起きても物理的に面倒をみられないオンライン診療での安易な処方には注意が必要だ。

「肥満」は治療すべき病気

高血圧や脂質異常症、糖尿病など生活習慣病と称される病気では、生活習慣を変えることが症状の軽減につながることは言うまでもない。ただし「習慣」だけに変えることは困難だ。特定保健指導を受けても、せいぜい1キロ程度しか体重は減らないし、当然ながら血圧や脂質を下げることも容易ではない。生活改善では効果が得られない場合、次は薬物治療となる。

近年は、肥満そのものを治療すべき病気と捉えるようになってきている。肥満が解消すれば血糖値や悪玉コレステロールは下がるので、糖尿病や脂質異常症を薬物で治療するより、肥満そのものを治療するほうが、より根源的だ。

GLP-1受容体作動薬のネックは、価格が高いことだ。1カ月の薬剤費は1万円を超えることも多い。健康保険の対象となる方であれば1〜3割の自己負担分だけ支払えばいいが、より安くなることに越したことはない。セマグルチドやチルゼパチドはペプチドという物質で作られており、低分子の化合物に比べて製造コストが高くつく。

現在、低分子の化合物でGLP-1受容体を刺激する働きのある薬が開発されつつある。ロシュはCT-966という薬を開発しており、先ごろ発表された第1相臨床試験では有望な結果が報告され、さらに開発が進められることになった。このニュースの発表により、セマグルチドを売るノボ ノルディスク ファーマの株価が下がり、ロシュの株価が上がった。世界は、それくらい注目しているのだ。

低分子薬であれば製造は容易となり、ジェネリック薬が登場すれば価格は一気に下がる。肥満は低所得国、低所得者の健康問題であるため、そのような国々で治療が受けられるようになれば、その健康に対するメリットは計り知れない。

久住 英二:内科医・血液専門医

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