「日鉄のUSスチール買収」アメリカが拒否反応の訳 アメリカが政党関係なく保守主義に走る背景
東洋経済オンライン / 2024年8月1日 6時0分
日本製鉄の最近の株主総会で、経営陣はUSスチール買収の政治的障害の懸念を最小限に抑えた。森高広副社長は不安げな株主に対し、「アメリカ大統領選挙が終われば、政治的な側面は消えるだろう」と語った。
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また別の幹部は、ジョー・バイデン大統領が買収を支持していないことと、ドナルド・トランプ前大統領による「即座に」買収を「絶対に」阻止するという宣言のどちらも否定した。
USスチールの本拠地であるペンシルベニア州が大統領選の激戦州にあることからこれは政治的な「ポーズ」に過ぎないという希望的観測に基づくもので、この幹部は「どの候補者が大統領になろうとも、おそらく選挙が終われば冷静な見方をするだろう」と加えた。
USWが政治に与える圧倒的な影響力
確かに、選挙の年はUSW(全米鉄鋼労組)の影響力が増す。もっとも、同組合は選挙がない年であっても、またその要求が経済全体に打撃を与える場合であっても、圧倒的な政治力を持っている。
例えば、アメリカでは鉄鋼の工場労働者は14万人だが、自動車や部品の工場労働者は100万人いる。それでも2018年、トランプは鉄鋼の輸入関税を引き上げ、バイデンはその関税をほぼ維持した。自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーターはそれぞれ、関税は年間10億ドルのコスト増となり、競争力と雇用に打撃を与えると述べた。
トランプは自分の利益になると考えを変えることでよく知られる。そのため、日鉄は最近、トランプの第1期国務長官だったマイク・ポンペオを雇っている。
ただ、経済はトランプが感情的になる数少ない分野だ。トランプは「アメリカの鉄鋼は日本に買われている。ひどい話だ」と発言しているほか、USスチールの買収に断固反対するオハイオ州のJ・D・バンス上院議員を副大統領候補に選んだのもトランプの外資嫌いを物語っている。今後数カ月、トランプとバンスがどれだけ日鉄に対する暴言を繰り返すかが1つの指標になるだろう。
要するに、今回の買収は孤立した問題ではなく、アメリカ両党の有権者や政治家の間で保護主義やナショナリズムが高まっていることを示す、「炭鉱のカナリア」の1つだということだ。
カギを握る仲裁委員会
とはいえ、日鉄がUSWとの合意を取り付け、カマラ・ハリス副大統領が大統領選で勝利すれば、買収が実現する可能性はある。その場合、現在買収に反対しているホワイトハウスも民主党議員も考えを改める可能性が高い。
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