「日鉄のUSスチール買収」アメリカが拒否反応の訳 アメリカが政党関係なく保守主義に走る背景
東洋経済オンライン / 2024年8月1日 6時0分
これまでのところ、USWは頑なに買収を拒否している。それどころか、アメリカでの森副社長との会談の後、組合はこれ以上の会談を拒否している。
ただし、8月15日から始まる第三者による仲裁委員会が突破口になる可能性もある。委員会が、日鉄が労組の不満に対する救済策を提供すれば取引は可能だと判断すれば、双方はそれに従わなければならないからだ。
今回の争点は2つある。第一に、USWはUSスチール買収の入札プロセスから除外されたと主張している。しかし、USWは入札権を同じアメリカの鉄鋼会社であるクリーブランド・クリフスに譲渡しており、日鉄は同社に競り勝っている。
第二に、USWは日鉄が現行労働契約の順守を保証するよう主張している。日鉄はこれを約束したが、労組側はさまざまな「抜け穴」があるため、この約束は無価値だと主張している。
例えば、日鉄は2026年9月までの契約期間中、解雇を行わないことを約束しているが、日鉄が提案した協約案には、「予期せぬ大幅な経営悪化」が起きた場合、この約束を破棄することができると書かれている。
仲裁委員会が労組側の不満を認め、救済策を提示した場合、双方はこれを受け入れなければならない。組合が受け入れれば、バイデン政権の国家安全保障審査も承認する可能性が高い。
白人労働者階級が保護主義に走った理由
なぜこの買収は炭鉱のカナリアとなったのか。数十年にわたる雇用と所得の喪失が、かつて民主党に投票していた多くの労働者階級の白人有権者を、トランプのような反グローバリズムのポピュリストに向かわせたからだ。
こうした有権者を取り戻すために、バイデンや多くの民主党議員は貿易や外資との関係に関しても同様のスタンスをとっている。ヨーロッパにも似たようなパターンがある。
1979年には2000万人いた製造業の雇用が現在は1300万人まで減少し、ブルーカラー労働者とその地域社会に大打撃を与えている。世帯収入が25パーセンタイルの家庭に生まれた1978年生まれと1982年生まれの2人の白人男性を例にとってみよう。27歳時、1978年生まれの男性の収入は3万9000ドルなのに対して、1982年生まれの男性はそれより18%少ない3万2000ドルである。
この落ち込みの最大の要因は、後者の男性の学歴でも努力不足でもなく、地域社会の失業率である。寿命や婚姻率も同じように悪化する。こうした中で、トランプが約束した雇用の復活が現実にならなくても、彼が掲げる「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」という言葉は魅力的に聞こえてくる。
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