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「世界から遅れている」日本の新薬開発3つの問題 コロナワクチンでも露呈、解決には何が必要か?

東洋経済オンライン / 2024年8月6日 12時0分

日本は、国民皆保険制度があるため、良質で詳細な医療データが蓄積されている。患者情報が電子カルテによって整理され、活用しやすくもなってきた。しかしながら、現段階では創薬への二次利用ができない。

「世界トップクラスのビッグデータになりうる可能性を秘めているにもかかわらず、製薬企業がそれらの情報を創薬に活用できないのは、大きな損失です」と、伊藤氏は指摘する。

そして3番目は、基礎研究にとどまり、実用化までに時間がかかる点だ。

基礎研究ではキラリと光る高い技術を持っているものの、日本はその技術を市場に出回る製品やサービスに実用化させられるベンチャーを育てることが得意とはいえない。これがAI創薬の足かせとなっているというのだ。

海外では、メガファーマがAI創薬を行うベンチャーを巨額で買収し、迅速に新薬を市場に送り出す流れも生まれている。初めからメガファーマに買収されることを視野に、研究開発に取り組むベンチャーも少なくない。

何より、メガファーマが組む相手はベンチャーだけではない。スイスを本拠地とするノバルティスはIBMやIntel、Microsoftと、イギリスのグラクソ・スミスクライン(GSK)はAmazonといったITのビッグカンパニーとも連携している。

豊富な医療データと高度なIT技術、そして潤沢な資金を武器に、メガファーマによる創薬の実装化が強化されているといえる。

日本のAI創薬に「富岳」利用

では、日本のAI創薬に希望がないかというと、「そんなことはない」と伊藤氏は言う。

日本のAI創薬が世界で戦うために必要なのが、伊藤氏らが進めている一般社団法人ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)の取り組みだ。

「富岳創薬DXプラットフォーム」もその1つ。スーパーコンピューター富岳を用いて、海外メガファーマの百倍規模にあたる数十億の化合物をふるいにかけ、創薬のターゲットとなる化合物を探し出し、世界初の「大規模ネットワークデータベース」を構築する狙いだ。

ほかにも、AMED(日本医療研究開発機構)が産学連携で進めるDAIIAのようなプロジェクトもある。製薬企業17社が所有する情報を、利害関係が発生しないようにAIに学習させることで、海外のメガファーマに負けない創薬を目指す。

伊藤氏の専門は「システム生物学」だ。

バーチャルで再現した人体に、薬剤の分子を加えることで、どんな反応が起こるかを予測する学問で、AI創薬では欠かせない分野の1つ。将来的にバーチャルな人体による臨床試験ができるようになれば、薬の効果が期待できる患者を厳選して薬を使うことも可能になる。

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