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「世界から遅れている」日本の新薬開発3つの問題 コロナワクチンでも露呈、解決には何が必要か?

東洋経済オンライン / 2024年8月6日 12時0分

「これまでの臨床試験は、年齢や基礎疾患の有無、飲酒や喫煙歴など、さまざまな条件を持つ人に、薬の候補を投与して、その効果を確認してきましたが、システム生物学を使えば、それが避けられます。患者さんに効かない薬を投与するというデメリットをなくすことにもつながります」と伊藤氏。

現在、伊藤氏は厚労省とともに、国が難病指定している特発性間質性肺炎、なかでも特発性肺線維症の治療薬の開発に関わっている。

特発性肺線維症は肺炎の一種だが、病態が複雑で原因が特定できないため、今のところ有効な治療薬がない。そのため、AI創薬のプロジェクトとしてこの病が選ばれたという。

「臨床データを収集するところから取り組んできましたが、特発性肺線維症という難病に対して構築してきたものは、ほかの多くの難病にも展開できると期待しています」(伊藤氏)

AI創薬がもたらす5つのメリット

最後に、AI創薬が今後、私たちにどんなメリットをもたらすのか見ていきたい。

1つ目は、伊藤氏が取り組む上述の特発性肺線維症のように、治療法が確立していない難病や希少疾患などに光が当たるようになったこと。

2つ目は、薬が患者の元に届くまでの時間の短縮化だ。膨大な量のデータを短時間で処理し、治療効果のある化合物を見つけられるAIなら、創薬までの過程を大幅に省略することができる。

3つ目は、低コスト化である。

時間の短縮化、創薬のプロセスの省略は、そのまま低コスト化にも貢献する。低コストで創薬できれば、患者自身の負担軽減はもちろん、医療費の削減につながり、国民全体の負担を軽くすることにもつながる。年々高額な薬が登場し、医療費の増大をもたらすなか、AI創薬におけるコストカットは大きなメリットだろう。

4つ目は、薬の精度が上がることだ。どの患者にどの薬を使えばいいのか、治療効果の高い患者を見極めて、適切に薬を投与することで、精度を上げることができる。AI創薬は、1人ひとりに最適な医療を提供する個別化医療の実現にもつながる。

そして5つ目は、より精度高く薬を患者に用いることで、有害事象、副作用を減らせることである。薬に副作用はつきものだが、副作用を減らすことができれば、患者への負担は軽くなる。

呼吸器の病気で開発進める

こうしたAI創薬のメリットを用いて、伊藤氏は、特発性肺線維症だけでなく、ほかの呼吸器の病気(喘息、COPD、肺がん)についても、国と一丸となって開発を進める。

「実際にAIが導き出した“薬のたね”を、患者さんの元に薬として届けるためには、製薬企業による患者の医療情報の円滑な活用といった課題もあります。それらを乗り越えて、2030年頃には成功例を出したい」(伊藤氏)

今村 美都:医療福祉ライター

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