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「佐渡島の金山」が変えた日本外交の「安倍基準」 世界遺産登録めぐり日韓の外交が機能した

東洋経済オンライン / 2024年8月8日 9時0分

いわば国際社会に向け、このように約束をして、何とか登録にこぎつけた。

日本政府、異例の後付け解釈変更

だが、その後、日本政府を待ち受けていたのは、「明治」の世界遺産登録を悲願として推進してきた人々や、いわゆる「右」の勢力からの激しい非難だった。

日本政府は、国際基準に照らし「強制労働」ではないと主張できる線で落着させたつもりだったが、「右」からすると到底納得できない屈辱的な表現と映った。

そのうえ日本政府内で、事前に相談を受けていなかった外務省国際法局からも登録決定後、「国際的には強制労働を認めたことになりかねない」との指摘が出始め、さらに混乱は深まった。

このころから日本政府内には、ユネスコの委員会で誓った日本代表の発言は、再び繰り返してはならないという空気が強まっていった。

困った揚げ句、日本代表の発言を知らせるホームページに異例の注釈を加える。それは例えば、こんなふうだ。

【注1】「意思に反して連れて来られ(brought against their will)」と「働かされた(forced to work)」との点は、朝鮮半島出身者については当時、朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき徴用が行われ、その政策の性質上、対象者の意思に反し徴用されたこともあったという意味で用いている

【注2】略

【注3】「犠牲者」とは、出身地のいかんにかかわらず、炭坑や工場などの産業施設で労務に従事、貢献する中で、事故・災害等に遇われた方々や亡くなられた方々を念頭においている――

つまり後付けで、「意思に反して」「働かされた」というのは、徴用の制度そのものの問題であり、「犠牲者」も朝鮮半島出身者のみならず、日本人を含めたすべてが対象だ、とした。

しかし、韓国政府当局者は「交渉の過程でそういう趣旨だとの説明は一切受けておらず、一方的に日本政府が解釈を変えた」と明かす。

さらに「記憶をとどめるため」に東京都内にできた施設では、朝鮮半島出身の労働者への虐待や差別を「聞いたことがない」とする元島民のインタビューなどが紹介され、韓国側は反発した。

日本政府としては、国内では「右」から不評を買い、国際社会に対しては約束を反故にしただけに、同じ問題を抱える「佐渡島の金山」問題は負担を感じる事案だった。

安倍氏らの岸田首相への突き上げ

2022年1月中旬、岸田文雄首相はいったんユネスコへの推薦を見送る方針を固める。

だがそれらが報じられると、また「右」が動き、首相を突き上げ始めた。安倍氏が「(韓国との)論戦を避ける形で登録を申請しないというのは間違っている」などと発言したことで流れが変わり、岸田首相は判断を変えて推薦することになった。

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