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「世界恐慌で事態悪化」日本が戦争に突入したワケ 無謀な戦争へと突き進んでしまった理由とは

東洋経済オンライン / 2024年8月8日 18時0分

日本が保有する金の量はあくまで限られています。金本位制では、国が保有する金の量によって、通貨の発行量も制限されます。金の代わりとして貨幣を使っているのですから、金がないのに貨幣を増やすのはおかしいからです。金本位制のもとで金が外国に流出すると、日本で発行できる国内通貨=貨幣の量が減少。金融引き締めと同じ効果をもたらし、不況の原因となったのです。

ただ、井上準之助はあえて不況を受け入れるつもりでいました。先述の通り、不況によって倒産しそうな企業がつぶれて、強い企業が残る。その結果、長期的に日本の経済は健全になり、国際競争力がつくだろうと考えたからでした。

さらに、財政を緊縮する(ここでは金の流出)ことで、対中戦争を見据えて膨張してきた軍事予算を削減する思惑もありました。当時、経済専門家の間でも、この井上の財政金融政策、つまり金本位制の導入は評価されていました。

世界恐慌でさらに事態が悪化

しかし……想定外のことが世界で発生します。それが、1929年10月に始まった世界恐慌です。世界恐慌とは、ニューヨークの株式市場での株価の大暴落を原因とした恐慌です。世界恐慌の影響はすさまじいものでした。アメリカの失業率は25%超を記録するほどで、これは2008年のリーマン・ショック、2020年の新型コロナウイルスで増加した失業率よりもはるかに高い数字です。

日本でも世界恐慌と旧平価での金本位制導入の影響を受けて、「昭和恐慌」(1930~1932年)と呼ばれる不況が深刻化しました。アメリカへの生糸の輸出が激減したり、不況によりお米の需要も減って値段が下がったりしました。特に農村地域で深刻な状況となり、東北や北海道では、天候不順により農作物が全然取れない不作が重なってしまう不運に見舞われました。

当時、東北地方の貧しい家庭は自分の子どもを売り渡したりする人身売買が横行していたことを考えると、窮状がどれほどか推して知るべしでしょう。

このような国内の悲惨な状況がやがて太平洋戦争に向かう原因にもなっていくのです。農村は疲弊している上、国内には資源が乏しい。一方、中国や東南アジアには天然資源がある。だったら、農村部で余っている人を中国や東南アジアに送り込んで、軍事的に侵略しよう。こういった流れができてしまったのです。

1931年12月、当時の高橋是清蔵相は金輸出再禁止を断行し、金本位制に代わって紙幣の発行額を国家が管理統制する管理通貨制度を採用しました。割高だった円のドルとの交換レートを実態に合わせて切り下げ、輸出を刺激したのです。公債を増発し、軍事費や公共事業費を増やす景気回復策をとりました。それにより昭和恐慌から脱出することができましたが、こうした積極財政がそれ以後の軍拡へとつながっていきました。

井堀 利宏:東京大学名誉教授

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