人が苦しむのは「自分が世界の中心」と思うから 姉を亡くした古舘伊知郎氏が目覚めた仏教の教え
東洋経済オンライン / 2024年8月9日 15時0分
フリーアナウンサーとして活躍する古舘伊知郎氏が仏教に目覚めたのは、姉の死を経験し、「生きる意味」について考え直したからだった。釈迦(ブッダ)の「諸法無我」の教えがあったからこそ、大きくなる自我を抑えられているという。そんな古舘氏が「天下一品の釈迦コンシェルジュ」と敬う、釈迦仏教の第一人者・佐々木閑氏との対話を通じて、現代の生きづらさと、釈迦の教えの神髄にふれる。
※本稿は、古舘伊知郎・佐々木閑著『人生後半、そろそろ仏教にふれよう』より一部を抜粋・編集したものです。
釈迦の仏教は人助けが目的ではない
古舘:釈迦は出家して苦行を6年間続けましたが、うまくいかなかったからやめましたよね。
佐々木:最初は断食や息止めなどの苦行によって肉体を痛め続けることで、心の苦しみを消滅させようとしました。でも、こうした苦行をやっても心の苦しみは消えないとわかったのです。
古舘:釈迦と同じように佐々木先生も、修行のための苦行をやることはナンセンスだと感じられますか。
佐々木:そうですね。身体のつらさを我慢したところで、問題解決にはならないでしょう。釈迦は、究極の安楽は「心のあり方」にあると気づき、苦行から瞑想修行へと方向転換します。そして、深い瞑想状態の中で自分の心と向き合い、苦しみを生み出す心の悪要素を断ち切っていこうとしたのです。
古舘:釈迦は、苦しみをなくすためには自分自身を変えなければいけないと菩提樹の下で悟り、「この世の真理」を手にしましたね。
佐々木:釈迦が手にしたのは、「諸行無常」と「諸法無我」の2つの真理です。諸行無常とは、この世のすべてのものは絶えず移り変わり、変容していて、不変なものはないという真理。諸法無我とは、この世界の事象はすべて原因によって動き、結果として現れる「縁起の法則」によって生じているのであって、その中に「私」という不変の実体など存在しないという真理です。
すべての苦しみは自分の心が生み出している
古舘:僕は「心の天動説」と呼んでいるのですが、現代人は自分が世界の中心にいると思い込んで苦しいと叫んでいる。
でも、この世は諸行無常だから物事はすべて移り変わるし、どんどん消えてなくなる。たとえば、自分は固定していて周りが移りゆくと思っているけど、いま息を吐いた瞬間の私と、息を吸い込んだ直後の私とでは、肉体も心の中もすべて変わっている。そして、諸法無我だから「私なんていない」「自分を滅しろ」と釈迦は言っているように思います。
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