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「経営」も「宗教」も本質理解できる"超スゴい理論" 「センスメイキング理論」って知っていますか?

東洋経済オンライン / 2024年8月9日 11時0分

「パーパス」という言葉だけが上滑りし、社員はそれに腹落ちしないまま、「自分が働くのは義務だから」「評価が下がるから」「給料が欲しいから」という理由だけで、日々活動している企業も多いのではないだろうか。

こういった企業の多くは、遠い未来への腹落ちよりも、目先の数字の正確性だけを重視する。

必死になって需要予測をし、予算管理をし、自らを数字で縛る短期思考の中期経営計画を作る。

「客観的に企業を数字で分析すれば、その課題を全員が同じように共有できて、問題は解決する」という、実証主義の立場だ。

しかし、これだけ先が読めない時代に、腹落ちのないまま数字だけに縛られていては、社員も経営幹部も行動できない。

センスメイキング理論によると、大事なのは「目先の正確性」以上に、みなが自社の存在意義や未来への解釈をそろえて腹落ちすること、すなわち「納得性」なのだ。

逆にいえば、多義性を排し、進むべき未来への腹落ちを全員で高められれば、組織は「思わぬ力」を発揮する。

「腹落ち」で組織が思わぬ力を発揮した「実話」とは?

象徴的な事例として、カール・ワイクが自身の論文で引き合いに出す逸話(実話)を紹介しよう。

昔、ハンガリー軍の偵察部隊が、アルプス山脈の雪山で急に猛吹雪に見舞われ遭難した。隊員はテントに逃げ込んだが、吹雪は止む気配がない。このままでは全員凍死することは目に見えている。

他方、外は先の見えない猛吹雪で、しかもあいにく誰も地図を持ち合わせていなかった。この死の恐怖におののく状況で、隊員の一人がなんと偶然、ポケットに忍ばせていた地図を見つけた。

すると、「いちかばちかだが、地図があったから、これで帰れるかもしれない」と隊長と隊員全員が納得し、リスクをとって下山を決意した。

そして猛吹雪の中、時間をかけながらも地図を手に進み、ついに無事に下山に成功したのだ。

ところが下山してから、部下が握りしめていた地図を見て隊長は愕然とした。彼らが見ていたのはアルプス山脈ではなく、ピレネー山脈の地図だったのである。(筆者意訳)


上記の逸話のポイントはおわかりいただけるだろう。

常識で考えれば、ピレネー山脈の地図でアルプスを下山できるはずがない。

しかし、大事なのはそこではなく、ピレネーの地図をアルプスの地図と勘違いしたがゆえに、「いちかばちかだが、地図があったから、これで帰れるかもしれない」と、隊長も隊員も全員が腹落ちしたことなのである。

全員が心から進むべきだと感じる道がそろったためにリスクをとり、結果、不可能に思われた下山を可能にしたのだ。

もしここで隊員たちが納得せず、「地図の正確性」だけに頼っていたら、下山を覚悟できずに全員が凍死していただろう。

今の日本では「正確性」だけにこだわり、「腹落ち」が弱いがゆえに"凍死"しかけている企業が少なくないように、私には見える。

入山 章栄:早稲田大学ビジネススクール教授

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