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鉄道車両を動かすシステムは見えない「小宇宙」だ 一部でもトラブルがあると全体が機能しない

東洋経済オンライン / 2024年8月13日 7時30分

筆者が「鉄道はシステム」という考え方を理解したのは、JR東日本の東京総合指令室を取材したときだった。東京総合指令室は、東京圏のJR在来線を管理する施設であり、1日約8000本の列車を動かし、約1400万人の旅客を運ぶ輸送の中枢として機能している。

この指令室に初めて入り、全体を見学して驚いた。これまで見た鉄道を支える職場や人のすべてが、見えない糸のようなものでつながり、歯車のように噛み合って動いているように感じたのだ。それは、「鉄道はシステム」という言葉の意味が腑に落ちた瞬間だった。

東京総合指令室は、「総合」がつく名の通り、複数の指令業務を集約して、鉄道全体を一括で管理している施設である。ざっくり言うと、列車運行や、乗務員や車両のやりくり、情報提供や座席指定などのサービス、線路・信号・電力・防災等の各設備を管理する部署があり、それらが総括指令長のもとで連携し合って列車を動かし、日々の鉄道輸送を実現している。近年は、このうちの列車運行を管理する部署(輸送指令)がクローズアップされてテレビで紹介されたが、それはこの指令室全体の一部にすぎない。

かつて日本の鉄道事業者は、東京総合指令室のような鉄道の舞台裏を公表することに消極的だった。俳優やミュージシャン、講演者が舞台裏や楽屋での姿をあまり見せたがらないように、日本の鉄道事業者もどちらかと言うと人間くさく、機械よりも人力に頼ることが多い職場を見せたくなかったのであろう。

しかし、時代は変わった。今は鉄道事業者がユーチューブのチャンネルやSNSのアカウントを運用し、自ら舞台裏の様子を積極的に公開するようになった。このことは、単に鉄道事業者の「ファン」を増やすだけでなく、鉄道に対する理解が深まるきっかけになる。

ならば、鉄道事業者は、鉄道のシステムとしての弱点も一般にさらしてはどうだろうか。鉄道は、全体が正常でないと輸送という機能を発揮できないシステムなので、その一部でトラブルが起こるだけで機能不全に陥り、路線全体で列車が動かなくなり、駅で人があふれることがたびたびある。そのような「融通がきかない」という弱点をはっきりと伝えることは、利用者の理解につながり、クレームやカスタマー・ハラスメントを減らすうえでも役立つのではないだろうか。

鉄道は「小宇宙」

さて、ここまでは、筆者が「鉄道は列車ダイヤにしたがって陸上輸送を実現するシステムである」という結論に達した理由を説明した。ただ、冒頭で紹介した「鉄道のことを知りつくしたいと思っている方」のなかには、「知りたかったのはそういうことではない」「面白くない」「自分が好きな車両の話が全然出てこない」と不満に感じる方もいるだろう。

そう、筆者が見た鉄道の全体像は、鉄道趣味との接点が少ないという点においては、面白みに欠けるものなのだ。たとえば電車などの車両は、人々が興味を持ちやすく、鉄道趣味の対象になりやすく、鉄道を知る入り口になりやすい存在ではあるが、鉄道全体においては、システムを構成する要素の一つにすぎない。

ただし、システムという言葉を手掛かりにして視座を上げ、その全体像を俯瞰すると、鉄道が持つ面白さがより感じられるのではないだろうか。機械式時計が「小宇宙」と称されるならば、鉄道だって「小宇宙」であり、魅力的なものだからだ。

川辺 謙一:交通技術ライター

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