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「何度も自死が起きる」片付け人が見た恐怖の現場 月130軒片付ける業者が語った"奇妙なゴミ屋敷"

東洋経済オンライン / 2024年8月17日 10時0分

月130軒もの現場を片付けているイーブイのスタッフたち。時折、“奇妙なゴミ屋敷”に出会うという。写真と本文は直接関係ありません(撮影:今井康一)

「亡くなった夫の部屋には一度も入ったことがないんです。夫に『入るな』と言われていたものですから」

夫の部屋の片付けを依頼した女性はそう話した。本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。

ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長に、開業から約10年間で見てきた“奇妙なゴミ屋敷”を聞いた。妻でも入ることができなかった夫の部屋にあったものとは。

自死が3件起きている“殺人現場”

イーブイは月に約130軒のゴミ屋敷を片付けている。それだけの数をこなしていると、中には奇妙な体験をした現場や、思い出したくない現場もある。その確率は高くないが、だからこそ忘れることができないという。

【写真】「何度も自死が起きるマンション」「顔面が削り取られた地蔵」ーー今回の“奇妙なゴミ屋敷”たち

大阪府内にある築浅のきれいなマンション。このマンションは過去、とある殺人事件の現場になったことで知られている。イーブイはこのマンションの部屋の片付けを3件請け負ったことがあるが、どれも住人が自死したことによる遺族からの依頼だった。

【写真】「何度も自死が起きるマンション」「顔面が削り取られた地蔵」ーー“奇妙なゴミ屋敷”があった場所を辿る

「2回目、3回目と依頼が来るたびに、『またここや』とスタッフたちと話していました。しかも、すべて自死だったので何か磁場的な問題があるんじゃないかと思ってしまうくらいです」(二見氏、以下同)

一人で住んでいた20代男性の遺族から依頼を受け、そのマンションの部屋に行くと、浴室のドアが消防隊に蹴破られたままの状態になっていた。扉が内側からガムテープで塞がれていて、外から開けることができなかったのだ。部屋には、練炭と腐敗臭が混じった独特な臭いが充満していた。

亡くなった男性には収集癖があったようで、部屋には小さい男の子向けのおもちゃがたくさんあった。部屋を片付けていると、誰も触っていない戦隊モノのおもちゃが「ウィーン、ウィーン……。シュルルルルル」と、音を立て始めた。

「不気味なのでスイッチを押して止めるんですが、しばらくするとまた鳴り出すんです。何度止めてもまた鳴るので、途中から放っておくしかありませんでした。そういうのを意識していたら気が持たないです」

妻が一度も入ったことのない「夫の部屋」

とある日は、崖の上に建っていた一軒家を片付けることになった。その一軒家には3人家族が住んでいたが父親が他界。依頼はその男性の妻からで、片付けてほしいのは夫の部屋だという。聞くと、どうも夫婦の関係は普通じゃない。

「亡くなった夫の部屋には一度も入ったことがないんです。夫に『入るな』と言われていたものですから」(依頼者の女性)

夫の部屋は母屋を出て、外階段で崖を下った先にあった。「離れ」とはいえ、家族がその部屋に一度も入ったことがないなんて、やはり普通じゃない。女性は夫の部屋に入ることを怖がってさえいる。

気味の悪さを覚えずにはいられなかったが、女性には母屋で待ってもらい、イーブイのスタッフたちは階段を使って夫の部屋へと向かった。

「生前、女性が部屋に入ろうとすると、旦那さんはきっと怒ったんでしょう。まるで結界を張っているかのようでした」

ドアを開けると約20畳と広めの部屋には、お経が書かれたお札が部屋中にぶら下がっていた。それも、前も見えないほどにびっしりと。そのお札が意味するものがわかれば、多少は受け止めることができたかもしれない。しかし、夫はもうこの世にいなければ、妻はお札の存在すら知らない。

約10年間、ゴミ屋敷清掃の現場に携わっている二見氏には、一度だけ腰を抜かすほど驚いた出来事がある。ゴミ屋敷になった団地の一室を片付けていたときのことだ。

その団地は取り壊しが決まっていたが、ゴミ屋敷になった部屋の住人が居座り、行政代執行が適用された。だが、住人は部屋を放置したまま別の場所に引っ越していた。

作業開始から3時間が経過したころ、黙々と作業をする中、和室にある押し入れの襖を開けると、そこには空き家に住み着いたホームレスの男性が座っていたのだ。

「ここの人ですか? どちらさんですか?」と二見氏が尋ねると、「違います」と一言。以降は何も話さなくなってしまった。

「なんとか出ていってもらいましたが、3時間も気付かずに作業をしていたので、見つけたときの恐怖はより大きかったです」

呪術師の家にあった「動物の骨らしきもの」

しかし、“人ではない”存在に脅かされる現場もある。

関西地方の某所。ここには占い館が軒を連ねることで知られている。現地を訪れた筆者が目視で数えただけで30軒以上の占い館がある。

「現存する占い館で一番古い」と自称する男性占い師いわく、この場所は、近くにある神社の存在にあやかり、約50年前に一人の占い師が占い館をオープン。10軒ほどまで店舗を増やすと、同じように占い館を開業する占い師がどんどん増えていったのだという。

最盛期は80軒以上の占い館が並んでいたというが、人気商売だけあって入れ替わりも激しい。あるとき、店を畳むことになった呪術師から、イーブイに連絡が来た。

「依頼内容は建物の中にある呪物を処分してほしいというものでした。店舗の2階部分が住居になっていたんですが、本当に呪物だらけです。全部で軽トラック1台分にはなったと思います。その中には呪いの言葉みたいなものが書かれた人形や動物の骨のようなものもあって気味が悪かったです」

呪物に限らずだが、雛人形や五月人形など、とくに祝い事の人形を処分する場合は、依頼主がお祓いをお願いするケースも多い。その場合、イーブイがいったんその荷物を引き取り、ほかの物件から出た人形などと併せて合同供養に出した後に、お焚き上げや処分をすることになる。

ただ、二見氏がもっとも怖かったのは、まだ創業間もないころに請け負った、某銀山にあるお屋敷の片付けだという。近くには霊山として知られる山があったり、その銀山では古くから多くの人夫たちが事故で亡くなっていたりする場所だった。

「依頼主はその屋敷に住んでいた方の親族でした。住人が亡くなったので屋敷を手放すことになったらしいんですが、見積もりのときも作業のときも、家の中に入ろうとしないんですよ。小さい頃から来ていた屋敷みたいなんですが、ずっと怖かったそうで」

銀山にいる首無地蔵

屋敷の敷地には、納屋と井戸がある。依頼主の様子を見ると井戸なんて近寄るのも怖かったが、屋敷の中でそれは起きた。

「片付けの最中に先祖の方々の写真が出てきたんです。『この人が住んではったのかな』と話しながら仕分けしていると、急に屋敷のブレーカーが落ちたんです。でも、それだけじゃないんです。屋敷には僕らと依頼主以外は誰もいなかったのに、スタッフの一人が2階に上がったときに知らない中年男性の姿を見ているんですよ。壁際に立ちながらこちらを見ていたそうです」

屋敷で起きたことは伝えなかったが、最後の立ち会いの際に依頼人がこう聞いてきた。

「作業中に何か起きませんでしたか」

二見氏が思わず「霊的なことですか?」と聞くと、依頼主は頷いたという。

見積もりの際には、心霊現象があるという話は一切出なかった。前持って話してしまうと、片付けを断られるのではと懸念したのだろうか。

そして依頼人には、屋敷を手放す前にどうしてもしておかなければならないことがあるという。

「屋敷のそばの林道を上ったところにいる首無地蔵さんにお参りをしないと帰れません。一緒に来てもらえないでしょうか」(依頼主)

過去を振り返ってみても、その林道がもっとも怖かったと二見氏は言う。

突然現れた少年

二見氏の記憶を頼りに、筆者も現地を訪れた。イーブイが片付けた屋敷は今でも空き家になっているようで、門の向こう側には埃をかぶった狸の置物が鎮座していた。屋敷の向かいにある民家の裏口には芝刈り機が置いてある。

林道も屋敷のすぐそばにあった。入り口には石碑が2つ。脇には地蔵も祀られている。

林道に足を踏み入れてみたが、二見氏の話を聞いてしまったせいか、とてもじゃないが一人では前に進めない。近隣住民の姿も一切なく、まるで廃村のようである。

10分ほど立ち往生していると、体操着を着た少年がガサガサと音を立てながら林道を上ってきた。歳を聞くとまだ小学5年生だという。ここにはよく来るのだろうか。それなら首無地蔵のことも知っているかもしれない。

「来たことないですよ。歩いていたら道を見つけたので入ってみました」

少年と一緒に上った林道の先には、寺があった。横には墓地が広がっている。そして、敷地内には地蔵が14体。どれが依頼主の言う首無地蔵なのかはわからなかったが、顎が欠けている地蔵や、顔面が削り取られた「のっぺらぼう」のような地蔵がいた。

先に下山したのだろうか。気づくと、少年の姿はなくなっていた。

自殺や殺人事件の現場になった部屋でも、住人が孤独死を遂げた部屋でも、奇妙な現象が起きる部屋でも、イーブイができるのは、あくまで片付ける(特殊清掃も含む)ことのみである。だが、そんな部屋たちをまた別の誰かが住めるように前に進めようとする人もいる。

事故物件には“希望”がある

真言宗僧侶の縫谷俊戒氏は、「釜鳴(かまなり)」という神事で孤独死のお祓いおよび物件の心理的瑕疵を解消する活動を行っている(※国土交通省が定めたガイドラインによると孤独死は心理的瑕疵に該当しない)。

同じく事故物件のお祓いをしている僧侶はほかにもいるが、縫谷氏が行っている釜鳴という手法は特徴的だ。

「一説では、釜鳴の発祥は3世紀後半以降、日本に存在したとされるヤマト王権にまでさかのぼります。

釜に米と水を入れてコンロで火にかけ、蓋を開けると“ボー”という音が鳴るのですが、これが通常の状態です。

音が鳴っている釜を持ちながら家の中を歩くと、不思議と音が鳴りやむ場所があります。そこが、“気”が滞っている場所。気の流れが止まると悪い状況が発生しやすく、逆に気の流れを良くすれば良い状況が発生しやすくなります。

なので、音が止まった場所で真言を唱え、再び音が鳴るようにしてあげるのです」(縫谷氏)

本連載で取り上げているゴミ屋敷やモノ屋敷には、住人が長らく立ち入っていないような部屋もある。ゴミやモノで埋め尽くされているのでしばらく窓も開けていない。やはり、そういった部屋は気の悪さを感じ、住人も怖くて立ち入らなくなっているケースさえある。

縫谷氏が求めているのはお祓いの「わかりやすさ」である。気を視覚で確認することができれば、次の住人の心理的負担も減るのではないか。次の住人に事実を伏せるのではなく、事実を伝えたうえで住んでもらう。そうすることで、事故物件はひとつずつ前に進んでいく。

【写真】「何度も自死が起きるマンション」「顔面が削り取られた地蔵」ーー“奇妙なゴミ屋敷”があった場所を辿る

國友 公司:ルポライター

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