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菅田将暉主演「転売ヤー」を襲う"ネット社会の闇" 「Cloud クラウド」が描く見えない悪意の暴走

東洋経済オンライン / 2024年8月19日 12時0分

平穏な暮らしは長くは続かなかった。吉井の家に、自動車の部品が窓に向かって投げ込まれ、ガラスが割られるという事件が起きたのだ。誰かのいたずらか? それとも――? そうやって知らず知らずのうちに吉井に向けられた悪意が、ジワジワと生活に侵食していくのだが――。

本格的なアクションをやりたかった

本作の企画は、「次は本格的なアクションをやりたい」という黒沢監督の思いが発端となった。

ヤクザや警察が派手な銃撃戦を行うようなスタイリッシュなものではなく、「およそ暴力沙汰とは縁がないような人たちが、最終的には殺すか殺されるかの、のっぴきならない状況を引き起こしてしまう物語」としてのアクション映画である。

それはけっしてスマートでカッコいいアクションではないが、現代社会のリアリティを反映したアクションになるはずだ。

そうした骨組みをベースに、黒沢監督が興味を持っていたという「インターネットを通じた殺意のエスカレート」「転売屋」といった要素を加味して本作の脚本をつくりあげた。

さらにそこにガンアクション、監禁、日常に侵食する恐怖といった、黒沢監督がかつてつくり続けてきたVシネマなどで描いてきたモチーフもあちこちにちりばめられている。

脚本を書いているときは「こういう主人公のような人物は菅田(将暉)さんのような個性的な人がやってくれればいいな」と夢想していたという黒沢監督だが、一方で「あれだけの人気者ですから。僕の映画のような小規模な映画に出ていただけるのか」という不安もあったという。それゆえ菅田がオファーを受けたと聞き「小躍りするほどうれしかった」と振り返っている。

もともと黒沢監督が想定していた主人公のキャラクター像は「“真面目にコツコツと”小さな悪事を積み重ねる人間」だった。一見、それはどこか矛盾をはらんだ言葉のようにも聞こえるが、実際に演じる菅田自身も、この吉井というキャラクターの人物像に複雑さを感じていた。

そこで「共通言語として参考になる作品はありますか?」と尋ねたところ、黒沢監督からはパトリシア・ハイスミスの原作を、アラン・ドロン主演で映画化した『太陽がいっぱい』(1960)を薦められたという。

実際に映画を観て、アラン・ドロン演じるトム・リプリーを「悪事を真面目にやっていて、気付かないうちに引き返せない状態になってしまう男」と感じたという菅田。それが吉井というキャラクターの人物像をつかむヒントになったと語っている。

人間のおそろしさが描き出されている

ここ最近、アスリートやタレントなどの著名人に対しての誹謗中傷が社会問題化しているが、表情や仕草などで相手の感情を読み解く対面のコミュニケーションとは違い、インターネット上では、会ったことのない人物に対して、断片的な情報だけで相手を判断してしまいがちだ。

そしてそこから「悪いヤツはたたかれても構わない」といった正義などが暴走してしまう下地が生み出されている。

そんな現代社会を背景に描き出した本作は、スリラー、ガンアクションといった要素で観客を惹きつけながらも、そこから人間のおそろしさ、得体の知れなさが浮かび上がる。それはまさに黒沢清作品ならではの味わいである。

壬生 智裕:映画ライター

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