脱炭素への競争、日本企業の戦い方は正しいのか 次世代技術の確立を待たず、今できる対策を
東洋経済オンライン / 2024年8月22日 9時0分
すなわち、社会経済やサプライチェーン、エネルギーシステムの構造的な変革を推し進めることで、人々の暮らしを豊かにし、社会のさまざまな課題を解決しつつ、同時に温室効果ガスの累積排出量を1.5度目標と整合するカーボンバジェットの範囲内に抑える、というものである。この戦略の特徴を以下で簡潔に述べる。
まず第1に、社会経済の変化を積極的に促そうとする点である。
たとえばモビリティ分野では、さまざまな変化が想定される。すなわちデジタル化を通じて人々の移動が減少するだろう。また、公共交通やカーシェアリングの利用が進むことで自家用車の台数の減少が予想される。自動車にリサイクルされた素材が使われるようになる。さらに、自動車業界は車両を販売するだけではなく、データを駆使して付加価値の高いモビリティサービスを提供するようになる。
本ロードマップでは、これをシナリオとして設定し、定量化してエネルギー需要や温室効果ガス排出量の分析の前提諸元として用いている。
こうした社会経済の変化の多くは、気候変動対策として取り組まれるものではないが、温室効果ガス排出量の削減に寄与するものも多く存在している。
本ロードマップでは、社会のさまざまな課題解決や人々の生活を豊かにするために取り組まれる多種多様な変革を、1.5度目標を実現するための排出削減と相乗効果を発揮する形で促進することを、広い意味での気候変動対策と捉えている。
エネルギーに関するかつてない変化
第2に、省エネルギーや電化など、エネルギー需要の大幅な変化である。
電化は、製造プロセスのデジタル化による生産性の向上とも、再生可能エネルギーの出力変動への対応とも相乗効果を持ちうる。それだけでなく、燃焼機器から大気熱を活用するヒートポンプへの転換や、内燃機関から熱のロスが少ないモーターへの転換などにより、エネルギー効率を飛躍的に改善することができる。
前述した社会経済の変化に加えて、省エネや電化を最大限に進めることにより、下図のように電気と燃料を合わせた最終エネルギー消費量は、2050年には現状の約半分まで減少すると考えられる(ただし電化などにより電力の消費量自体は増加する見通しである)。
第3の特徴は、国内の再生可能エネルギーによる電力と水素の供給を進めることである。
日本においてポテンシャルが大きく、自然環境への負担も比較的小さいと考えられる、屋根上太陽光や営農型太陽光、浮体式洋上風力を中心に、各業界団体の目標値水準まで導入が進むことで、2050年の電源構成では再生可能エネルギーが85%を占めるようになる。
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