脱炭素への競争、日本企業の戦い方は正しいのか 次世代技術の確立を待たず、今できる対策を
東洋経済オンライン / 2024年8月22日 9時0分
石炭火力発電は2035年までにフェーズアウト(段階的廃止)され、発電所の跡地の一部は洋上風力の組立ヤードや基地港湾として活用されるようになる。この場合でも、水電解による水素製造、電気自動車や定置型の蓄電池の利用、LNG(液化天然ガス)火力を改修した水素専焼火力、さらに広域的かつ効率的に送電系統を利用できるルールの整備により、電力の安定供給が可能である。
いずれの要素も、現状の延長線上では容易に実現できるものではなく、既存の制度や、企業および個人の行動パターンの「変革」を前提としている点が共通している。これを著者らは「システムチェンジ」と呼んでいる。
その具体的な内容については後編(8月23日配信予定)で詳しく説明するが、少なくともシステムチェンジが実現するためには、それが社会の多くの構成員にとって魅力的で支持できるものでなければならない。
そこで、このロードマップの策定にあたっては、産業連関分析や電力需給分析といった定量的な分析を実施した。加えて気候変動問題に積極的に取り組む約250社からなる企業集団である日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の協力のもと、企業を中心とする実社会のステークホルダーとの反復的な対話を通してシナリオを構築した。このような取り組みにより、ロードマップの受容性や実現性を高めている。
変化の先にある「豊かで持続可能な社会」
さて、このロードマップが実現した先に、どのような未来が待っているのだろうか。
まず、気候危機を克服しながら経済が成長し、さまざまな課題が解決された将来社会を構想することができる。
今回のロードマップにおいて想定される社会経済の変化は、そのほとんどが政府の各省庁において策定されている幅広い分野のビジョンを反映したものである。
単にエネルギーや気候変動対策の視点からの最適解を追求するのではない。たとえば移動困難者の増加や生産性低迷など、さまざまな課題解決を社会全体で目指す中で、同時に気候変動対策にも取り組む、分野横断的なビジョンとしてシナリオを策定している。
また、国内の再生可能エネルギーの導入が拡大することで、企業は事業活動において容易に安価な再生可能エネルギーを利用できるようになる。特に浮体式洋上風力の量産体制が構築され、大規模に導入されれば、発電コストを低廉に抑えることができるようになる。
電力の安定供給を、電気自動車や蓄電池などの分散したリソースを動員して実現できるようになれば、需要と供給をバランスさせるためのコストも安価になる。燃料価格の高騰に左右されず、より安定した価格でエネルギーを調達することができるようになる。
再エネシフトで海外への資金流出にも歯止め
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